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震災と同じく3年が経過したシリア危機。すでに14万人以上が犠牲になったが、今も殺戮は続いている

黒井文太郎軍事ジャーナリスト

本日は震災3周年。

ということで、メディアでは関連の特集が多く報じられています。

そんななか、私個人としては、一昨日の深夜テレビで放送されていた『遺体~明日への十日間』(君塚良一監督)という映画がいちばん心に残りました。西田敏行さん主演のフィクションですが、実話を基にした物語です。

『遺体』は、震災直後の釜石の遺体安置施設を舞台にしています。当時の震災報道でほとんど報じられなかった「場所」です。

震災当時もメディアでは「遺体を報じるかどうか」という議論があり、それは賛否両方の意見があっていいとは思うのですが、私自身は映画『遺体』が、作り物の映像とはいえ、ぐっと胸に刺さりました。遺体という存在・・・遺体と向き合う人々の姿・・・そういったものが、直接的に死の重みを突きつけるのです。

死者と行方不明者は1万8517人。さらに避難生活などで亡くなった方は2900人あまり。合わせると少なくとも2万1400人以上の尊い命が失われました。そのひとりひとりに、たいへんな悲しみの物語があります。

ユニセフが子供の人道危機を報告

同じように、たいへんな悲しみを、まさに今、シリアの人々が経験しています。

シリアで反体制派のデモが始まったのは、震災から4日後の2011年3月15日。直後から独裁政権による凄まじい殺戮が始まり、もう3年になります。

しかし、世間はほとんど関心を持っていないように見えます。昨年夏から秋にかけて、政府軍による化学兵器使用から、米軍の攻撃寸前まで事態が緊迫したことがありましたが、それが回避されてからは、まるで危機は去ったかのような錯覚さえ覚えます。

しかし、そんなことはありません。現在も激しい戦闘は続いており、とくに政府軍による市街地・住宅地への無差別爆撃で一般住民の犠牲者が続出している状態です。

そんななか、本日、ユニセフが『包囲されて~3年に及ぶシリア紛争による子どもたちへの壊滅的な影響』と題する報告書を発表しました。

それによると、この3年で紛争により死亡した子供は1万人。現在、支援を必要とする子供は550万人で、これはシリアの子供の56%に相当するといいます。

また、包囲下で人道支援が受けられない子供は100万人。うち5歳未満が32万3000人です。

たいへんな人道危機といえますが、国際社会は現在、ウクライナ危機で手一杯で、シリアは忘れさられています。

14万人が犠牲になり、国民の半分が避難民に

この3年間で、すでに14万人の人が亡くなっています(政府側戦死者含む)。これは反体制派人権団体などによるカウントですが、実際には行方不明者が大勢いますので、犠牲者の総数はもっと多いと思います。14万人としても、人口2200万人の国での死者数です。

また、現在、自分の家を追われて国外難民あるいは国内避難民になった人が、1000万人弱に達しています。国民の半数という凄まじさです。

映画『遺体』を観た方も、観ていない方も、そこに2万人以上もの死があったことに衝撃を受けた方であれば、シリアの14万人の死の悲しみの凄まじさも、きっと想像していただけるのではないかなと思います。

去年の写真ですが、悲しみのほんの一部を貼っておきます(上写真)。実際には、こうした遺体が14万体もあるのです。

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下写真は最近。政府軍による市街地への無差別爆撃の犠牲者です。

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ちなみに、シリアで凄まじい殺戮が始まってから、私は現地から発信される現場映像を日本のメディアで伝えようと動いたことがあります。

雑誌メディアやネット・メディアでは遺体の写真・映像を使うことができたのですが、テレビではやはり当たり障りのない映像に制限されました。しかたないことですが、やはり本当の悲惨さを伝えるには不十分だったと思っています。

世界がシリアの殺戮を見て見ぬふり!

私はシリアに住んだことはありませんが、1984年から何度も訪問していて、今も現地には知己が多くいます。

かの国は、秘密警察国家特有の重苦しさはありましたが、日本でイメージされているような未開の国ではなく、それなりの生活レベルの国でした。それが、民衆が独裁者に歯向かった結果、こんな酷い状況になってしまいました。

しかも、シリアでは今も、毎日数十人から数百人のレベルで殺戮が続いています。

政府軍vs反政府軍vsイスラム・テロ集団の三つ巴の戦いになっていて、もちろん戦闘で戦死する兵士もいますが、死者の多くは民間人です。先日、国際会議なるものがあって、政府軍による一般市民への無差別爆撃や、ライフラインをとめて飢餓や窮乏をもたらしている町村への封鎖が禁止されることになりましたが、そんな口約束はまったく守られていません。

本来であれば、シリア政府に国際社会が強い圧力をかけるべき局面なのですが、ロシアのプーチン政権がアサド政権をあくまで擁護する姿勢を崩さず、国連安保理の機能を無力化させています。アメリカのオバマ政権も事実上、不介入政策をとっています。しかも、前述したように、国際社会の注目はウクライナに集中しており、結果、世界はシリアの人々を見殺しにしています。

最近、私はネット・メディア「JBPRESS」にシリア情勢とウクライナ情勢の解説記事をそれぞれ寄稿したのですが、やはりウクライナ記事に比べてシリア記事のアクセスは少なかったようです。

'''▽またも茶番に終わったシリア和平会議~アサド政権による「虐殺」の放置を黙認しただけ'''2014.02.19

'''▽ロシアが本格的軍事介入へ~今後のカギを握るウクライナの親ロシア勢力'''2014.03.04

ウクライナ問題はもちろん重要ですが、毎日多くの人が殺されているシリアのことも、やはり忘れないでほしいと思います。

軍事ジャーナリスト

1963年、福島県いわき市生まれ。横浜市立大学卒業後、(株)講談社入社。週刊誌編集者を経て退職。フォトジャーナリスト(紛争地域専門)、月刊『軍事研究』特約記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て軍事ジャーナリスト。ニューヨーク、モスクワ、カイロを拠点に海外取材多数。専門分野はインテリジェンス、テロ、国際紛争、日本の安全保障、北朝鮮情勢、中東情勢、サイバー戦、旧軍特務機関など。著書多数。

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