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なぜ「オスプレイは危険だ」との誤解が広がっているのか

黒井文太郎軍事ジャーナリスト
オスプレイ(PHOTO; DoD)

初めて厚木に飛来

7月15日、米海兵隊のオスプレイが輸送業務で神奈川県厚木基地に初めて飛来しましたが、いまだに「オスプレイは欠陥機なので危険」だと思っている方が大勢いらっしゃるようです。

ですが、それは誤解に基づく誤報道によるものです。米軍が乗員の生命が危険な欠陥機を配備するなどあり得ないということは、常識的にわかることだと思うのですが。

事実は「オスプレイは新機軸の航空機なので開発が当初は難航し、開発段階で事故が多発した。しかし、諸問題が克服されて安全性が確立され、米軍に正式採用された。その後、事故率は他のヘリに比べて高くない」です。

それなのに、どうしてこういう誤報道があとを絶たないかというと、沖縄の基地反対派系の一部のメディアがそうした情報を盛んに流しているからです。

私は沖縄の海兵隊キャンプは削減すべしと考えていて、どちらかというと結果的に基地反対派に近いのですが、それでもオスプレイ問題は米軍批判の材料にはなりません。白黒はっきりしている問題なので、集団的自衛権の問題のように、「さまざまな見方がある」というような話でもありません。

ということで、オスプレイ欠陥機説のおかしな点は、私はかねてから指摘してきました。

'''▽「安全性」と「基地問題」を混同しているオスプレイ沖縄配備への反対運動(JBpress:2012.10.05''')

オスプレイ欠陥機説の間違いは、上記事にて解説しているので、ここでは繰り返しません。

ただ、これはなにも私ひとりの考えというものではありません。軍事専門誌に寄稿しているような軍事評論家の方で、「オスプレイは欠陥機だから危険だ」と主張されている方は、おそらくひとりもいないのではないかなと思います。

「アメリカでも反対運動」の誤解

オスプレイ問題では、とにかく誤解に基づく誤情報が多いわけですが、ここではひとつの典型例をご紹介します。

私は昨夏、某TV番組に呼んでいただいた際、「アメリカでもオスプレイが危険だということで、反対運動があるようですが?」と質問され、「ありません」と断言しました。オスプレイが危険だと騒動になっているのは、日本だけだからです。

それ対し、SNSでいくつか反論をいただき、ブログでこちらも以下のように反論しました。

まず、基地反対派の方々が常に持ち出してくるのは、下記の2件です。

ニューメキシコ州で、オスプレイと特殊作戦用輸送機による夜間山岳低空飛行訓練が、住民(先住民遺跡地区)の反対により延期。

ハワイで、オスプレイによる飛行訓練予定地の一部が、先住民遺跡地区だったので、そこだけ中止。

ニューメキシコ州のケースは、オスプレイだからということではなく、どんな航空機でも夜間山岳低空飛行訓練には反対の声があったということ。「オスプレイ反対」ではありません。

ハワイのケースは、純粋に遺跡保護という問題。こちらも「オスプレイ反対」ではありません。

これを、なぜか「アメリカでもオスプレイの安全性が懸念されている」と誤解している報道があとを絶ちません。上記2件を報じる一部メディアが、たぶん思い込みからだと思うのですが、「安全性への懸念もあって……」と存在しない反対理由を書き加えており、そこから誤解が広がっているようです。

それで「だからオスプレイは危険だ」と考えれば、オスプレイ反対を主張されるのは当然だと思うのですが、その元となる情報自体が誤解に基づいているわけです。

上記2件を報じる記事の一例です。

▽「オスプレイ 米で反対運動、訓練延期」(12年7月19日 東京新聞)

リンクが切れているようなので、一部引用します。

米軍の垂直離着陸輸送機オスプレイの低空飛行訓練計画に対し、米国南西部にある空軍基地周辺で反対運動が起き、訓練を半年延期し、内容を見直していたことが十八日、横浜市のNPOによる調査で確認された。米国で住民の不安に配慮していたことは、訓練への懸念が強まっている日本への配備や訓練計画にも影響を与えそうだ。

見直しが行われたのはニューメキシコ州キャノン空軍基地。オスプレイの空軍仕様(CV22)機の低空飛行訓練計画を立て、昨年八月、簡易な環境評価書案を公表した。訓練は夜間に行われ、垂直発着陸のほか、乗組員の降下や物資の投下・回収などだった。

住民らから騒音や安全性、自然環境への影響を懸念する意見が約千六百件寄せられ、空軍は先月、訓練開始の延期を決定。訓練内容を見直し来年の早い時期に発表することにした。(以下略)

この記事では、特殊作戦用輸送機が参加する訓練だということが言及されておらず、オスプレイだけのような印象になってしまっています。また、夜間低空飛行訓練に対する住民の方々の反対が、「オスプレイに反対」かのような印象にもなってしまっています。

しかし、実際には「オスプレイだから危険」などという声はありません。結果、記事タイトル含め、事実とは異なる印象になっています。

他方、ハワイのほうはこちら。

'''▽米軍がオスプレイ訓練計画を中止 ハワイ2空港、環境に影響(12年8月14日・琉球新報)'''

タイトルではきちんと「環境に影響」と書いていますね。

本文中では「安全性に対する地元住民の不安」との一文がありますが、こちらもオスプレイだから危険というような話では全然ありません。

誤解に基づく誤情報の一例

SNSで具体的に、「アメリカの活動家が、沖縄訪問時にオスプレイ反対を訴えた」とのご指摘を受けたこともあります。

その根拠となったのが、以下のニュースです。

▽検証 動かぬ基地 vol.127 オスプレイ訓練延期させた米国女性(琉球朝日放送 2013年3月21日)

ここに登場するのは、The Peaceful Skies Coalition(平和的な空たち連合)」の代表のキャロル・ミラーさんという方です。The Peaceful Skies Coalitionは'''公式HP'''によると、ニューメキシコ州・コロラド州での米空軍特殊作戦部隊のオスプレイとC-130輸送機による低空飛行訓練をやめさせるために設立された組織となっています。

現在、番組のVTRリンクは停止され、'''文字解説のみ'''になっていますが、当時、番組を拝見したところ、「アメリカの活動家がオスプレイ反対を表明している」と同局は報道しています。

ところが、ミラーさんが主導するThe Peaceful Skies Coalitionの上記のHPをみても、「オスプレイに反対」とは書かれていません。あくまで低空飛行訓練に反対しているだけです。反対の理由も、騒音や風圧による環境への悪影響ですね。オスプレイ限定でもありませんし、ましてや「オスプレイ特有の危険性」にはまったく言及されていません。

考えられることは以下のようなことです。

▽ミラーさん個人だけが「オスプレイそのものに反対」

どこにもいろいろな方がいますので、可能性がないわけではありません。

ただ、同グループのSNSにこの方が書き込んでいるものなどを拝見すると、もともと反戦運動系の方で、すべての米軍の活動、すべての兵器に反対というような意識の方であることが推測されます。

ですが、仮にそうであっても、あくまでこの方おひとりの見解であり、彼女が主導する同グループの考えではありません。アメリカにオスプレイ反対運動があるわけではないのです。

▽同局の誤解

地元住民や地元の環境へ配慮に欠けた米軍に対する抗議ということで、ミラーさんが沖縄で語ったことを、同局が「オスプレイ配備への反対で連携した」と誤解し、そのように「盛って」編集した可能性があります。

たとえば、文字解説でも番組のキャプションでも、やたらと「オスプレイ」という文字が出てきますが、実際には放送された彼女のコメントに、ほとんどオスプレイという言葉はありません。「騒音さえも、自由のための音だと言うのです」とのコメントにも、なぜか「オスプレイの騒音さえも~」とのキャプションが書き加えられています。

通常、もしも「オスプレイだから反対」、ましてや「オスプレイは危険だから反対」というのであれば、きっちり単独インタビューも撮っているわけですので、そうした明確なコメントを当然採用するはず。それがないということは、同局が期待したそうしたコメントが、実際にはなかったということではないかと思います。

いずれにせよ、アメリカには地元住民による「低空飛行訓練反対」運動はありますが、「オスプレイ反対」運動は存在しません。それを日本では一部のメディアが誤解して報じているということかと思います。

軍事ジャーナリスト

1963年、福島県いわき市生まれ。横浜市立大学卒業後、(株)講談社入社。週刊誌編集者を経て退職。フォトジャーナリスト(紛争地域専門)、月刊『軍事研究』特約記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て軍事ジャーナリスト。ニューヨーク、モスクワ、カイロを拠点に海外取材多数。専門分野はインテリジェンス、テロ、国際紛争、日本の安全保障、北朝鮮情勢、中東情勢、サイバー戦、旧軍特務機関など。著書多数。

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