Yahoo!ニュース

「今でしょ!」大ヒットの理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

「いつやるか? 今でしょ!」の決めフレーズでいま話題の人物と言えば、大手予備校・東進ハイスクール/東進衛星予備校で現代文講師を務める林修先生。

2013年1月にトヨタのCMに起用されると、これが大反響を巻き起こし、一気に大ブレイク。『中居正広の金曜日のスマたちへ』(TBS)、『ネプリーグ』(フジテレビ)、『笑っていいとも!』(フジテレビ)といったバラエティ番組にも出演。無料通話・メールアプリ「LINE」でも「今でしょ!」のスタンプが登場しました。現在では本業の予備校講師業で全国を飛び回るかたわら、テレビ出演などの仕事も増えて多忙な日々を送っているようです。

林先生の代名詞とも言えるのが「今でしょ!」のフレーズ。これが人気の火付け役となったのは間違いありません。それにしても、このフレーズはどうしてこんなに大ヒットしたのでしょうか?

ヒットの要因は、大きく分けて2つあると思います。1つは、一発ギャグのような「芸」としての完成度の高さ。CMを何度もじっくり見て分析してみると、これが実によくできています。発声、表情、身振り手振り、そして目線の置き方。これらすべてがプロの芸人の一発ギャグのように周到に作り込まれています。

特にすごいのが表情の作り方です。前振りとなる「いつやるか?(いつ買うか?)」のときには目をカッと見開いて、人を威嚇するような険しい表情を見せる。そこから顔面を少し後方に引いて、一瞬だけ「ため」を作ってから、再び上目遣いの力強い表情で「今でしょ!」と決める。この「緊張-緩和-緊張」という一連の流れで、見る者の心を揺さぶるのです。

また、人間というものは、問いを投げかけられるとそれを無意識のうちに考えてしまう習性があります。強い表情で「いつやるか?」と問われると、「えっ、いつやればいいんだっけ……」と答えを探してしまうものなのです。そこで、問いに対して答えを出すことに意識が向いて無防備になった隙を突いて、間髪入れずに「今でしょ!」という想像を上回る答えが飛び出してくる。これで受け手は一気にノックアウトされてしまうというわけです。

もう1つの理由は、林先生のこの芸風が「賛否両論」だということです。林先生が出演するCMを見て、素直に面白がる人がいる一方で、「なんか腹立つ」「ムカつく」といった否定的な反応を示す人も少なからずいます。ただ、これは決して悪いことではありません。

なぜなら、人に好かれるのも嫌われるのも「強く印象に残っている」という意味では同じことだからです。「あのCM、なんかムカつくんだよね」と口にする人は、知らず知らずのうちにそのCM自体を他人に広めてくれています。CMを作っている企業にとって、口コミで勝手に広がっていくほどありがたいことはありません。また、賛否両論だからこそ「あれってどう思う?」と話題にもしやすいのです。こうやって林先生の存在はますます多くの人に知られるようになり、人気が加速していきました。

お笑い界では日々、プロの芸人たちがさまざまなフレーズやギャグを考えていますが、林先生の「今でしょ!」はそれらに引けを取らないほど完成度が高い決めフレーズだと思います。「フライングゲット」という一発ギャグで流行語大賞を狙っていたキンタロー。にとっては、強力なライバルが出現したという感じかもしれません。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

ラリー遠田の最近の記事