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「僕じゃありません」元キングオブコメディ今野浩喜さんスピーチ全文

ラリー遠田作家・お笑い評論家
(左から)ビートたけし、今野浩喜、ガダルカナル・タカ

2016年2月28日、東京・東京プリンスホテルにて、ビートたけしさんが審査委員長を務める『第25回東京スポーツ映画大賞』『第16回ビートたけしのエンターテインメント賞』の授賞式が行われました。

『第16回ビートたけしのエンターテインメント賞』の激励賞に選ばれたのは、元キングオブコメディの今野浩喜さん。相方だった高橋健一被告が女子高生の制服等を盗んだ窃盗容疑で逮捕されたことを受けて、たけしさんからエールを送るという意味を込めて賞が贈られることになりました。

壇上に現れた今野さんの顔を見て、たけしさんは「巨人の桑田の中学生(時代)かと思った」と一言。そして、今野さんは飄々とした態度で受賞スピーチを行い、爆笑をさらっていました。また、司会のガダルカナル・タカさんとの軽妙なやりとりや、ビートたけしさんの口から語られるお笑いコンビに関するお話も興味深い内容だったので、以下にほぼ全文を書き起こしておきます。

タカ:非常に複雑な気持ちだとは思うんですけどね。

たけし:俺も不祥事起こしてるからな。

タカ:起こしてるどころの騒ぎじゃないですよね。1回や2回じゃないですから。

たけし:(今野に対して)俺、あれのネタが好きだったんだけどな。サラリーマンが関西か何かで安いホテルに泊まって、そいつらが帰ってきて、あそこ行ったの、行ってない、っつって。北海道の時計台とか行ったの、行ってない、時計持ってるもん、って。あれ、すごいいいネタだと思ったんだよなあ。若手はちゃんとチェックしてるんで。

今野:あのネタはもうやる機会ないんで、あげます。

たけし:あと、TBSの番組で落語をやってたんだよね。視聴率が取れなかった番組なんだけど。こいつの落語を見て、上下(かみしも)もそれなりにちゃんとできるし、いい芸を持ってるので、コンビが今はちょっとあれだけれども……これからどうなるかはわかんないよ。だけど、あなたはあなたであれだけの芸を持ってるんだから、これにめげることなく、芸の世界、特にお笑いの世界でがんばるべきだと思って、励ます意味で。がんばってもらいたいなと。

(以下、今野さんのスピーチ)

今野:ありがとうございます。今野です。実際こう、司会の方から「相方が捕まって」と言われると、結構グッとくるものがありますね。実感が今すごい。僕みたいな、特に売れてもない芸人が、「あいつはなんでいるんだ?」「捕まった?どういうことなんだ?」って、知らない方もいると思うんですけども……知らないままでお願いします。

簡単に言えば、同じグループ内に泥棒がいたんです。これ以上細かく言うと生々しくなるので。そういうことなんです。僕も今まで(ノミネートされた)いろんな人のを見てて、あっ、仕事という理由で断れば良かったな、って思ったんですけど、それでも来ようと思ったのは、言いたいことがありまして。だいたいこういうことになるとですね、捕まったのは僕の方だと思う人が多いんです。

タカ:まあ、言いたくないですが、ビジュアル的な評価をした場合、確実に今野の方だと思われますよね。

今野:やっぱり人は顔なんだなと。それだけを今日は言いに来ました。僕じゃありません。ありがとうございました。

今野浩喜
今野浩喜

タカ:審査委員長の方からもありましたが、落語もそうですし、役者として非常に評価されてる部分も多く、ドラマにも呼ばれてますよね。もし今後、北野(武)映画にオファーがあったりした場合には?

今野:そうですね、できれば、激励賞というものを頂いた、たけしさんには責任を取ってもらいたいですね。しっかりと僕を映画に使って、売っていってほしいですね。

タカ:どんな役でも大丈夫ですか?

今野:どんな役でもやります。

タカ:例えば、女子校に忍び込んで……。

今野:それは元相方に言ってください。

たけし:俺の場合は、盗むのは自転車のサドルに替えて。

タカ:どっちにしてもそういう役が似合いそうですけどね。

今野:まあ、サドルであれば考えます。

タカ:やるんかい! まあ、いろんな役でこれから活躍するでしょうし。僕がひとつだけ気になってることを聞いてもいいですか?もし今後、解散はしましたけど、高橋が、ちょっと相談があるというふうになった場合、何らかの力添えとか考えたりしますか?

今野:そうですね、今はあの、こういった役者業なりがうまくいっているので、今は全くそういう気はないんですけども、今後、僕も仕事がなくなってきたら、考えようと思います。

タカ:まあ、もしそういう状況が来たらね、ちょっとだけ考えてやっていただきたいと思います。ぜひ今後もがんばってください。どうも、おめでとうございます。

今野:はい、ありがとうございました!

たけし:コンビっていうのはすごい大変なもんで。昔、同期で(大木)こだま・ひかり、今は(大木)こだま・ひびきっていうんだけど、こだま・ひかりっていう漫才師がいて。日本テレビの10週勝ち抜き番組(『お笑いスター誕生!!』)の10週目に勝ち抜いて、さあこれからスタートだっていうときに、ひかりが捕まるんだよな、覚醒剤で。楽屋袖で刑事が待ってたんだな。何もそこまで延ばさなくていいじゃないかって、こだまとちょっと話したことがあるんだけど。何十年もコンビを組んで、さあこれからっていうときに、薬に手を出したのかよ、っていう。そのショックから立ち直るために相当力を入れて、やっと今は大阪では大御所になって、こだま・ひびきっていう、漫才で認められるっていう位置に行ったけど。コンビというのは本当に難しくてね。

俺は、横山やすしさんが死んだときに(新聞の見出しなどで)「天才やすし死ぬ」って書いてあって、ものすごい文句を付けた。いくらやすしさんが天才だって、コンビを5~6回変えてるわけね。やすしさんが本当に天才だったら、1回目の相方で売れてなきゃおかしいだろ。なんで5~6回も変えたんだ。それは(西川)きよしさんがいたからだよ。やすきよっていうのは、やすし・きよしじゃなけりゃ売れないはずで。いくらやすしさんが天才だって、相方がダメだったら売れなかったって書いたことがあるんだけど。

そしたら、律儀な人で、きよしさんが。新幹線でおしぼり持ってトイレの前で待ってんの。きよしさんは、どうも、たけしさん、って。師匠、ちょっと待ってくれ、俺、何もしてませんよって言ったら、いや、週刊誌の記事を読みました。ありがとうございますって言われたんだけど。

まあ、コンビってそういうものでね。うまい同士がやっても、俺と(島田)洋七としゃべる同士で漫才やったことあるんだけど、ただ漫談のやり合いで、つっこむとか何もなかったんで。やっぱり縁なんだろうね。

これは不慮というか、いろんな問題があって、1人になってしまいましたけど。やっぱりそれはそれなりの、芸能界の自分のキャリアの上での歴史であって、それをいい方に展開して、上がっていけばいいっていうふうに思わないと。そうやってがんばっていってほしい。

タカ:はい、くだらない表彰をしているようで、ちゃんと思ってくれてますからね。がんばってくださいね。

今野:ありがとうございます。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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