Yahoo!ニュース

空前絶後!! サンシャイン池崎ブレークの理由は「伝え方」が9割

ラリー遠田作家・お笑い評論家
サンシャイン池崎(写真:つのだよしお/アフロ)

みやぞん(ANZEN漫才)、おばたのお兄さん、ブルゾンちえみなど、年明けからお笑い界では次々に新しい芸人が台頭してきていて、例年になく話題が豊富ではないかなと思います。中でも、最近にわかに注目を集めているのがサンシャイン池崎さん。袖なしシャツと短パンに身を包み、ハチマキを締めて髪を逆立てる独特の外見で、ハイテンションに叫びまくるネタで人気を博しています。

そんな彼が注目されるきっかけになったのが、年末の『絶対に笑ってはいけない科学博士24時!』(日本テレビ系)に出演したことです。科学研究所の所長という役回りで登場した池崎さんは、必死で笑いをこらえるダウンタウンらレギュラー陣の前に現れて、全力でネタを披露していました。

「イエーイ! 空前絶後の、超絶怒濤のピン芸人所長、笑いを愛し、笑いに愛された男、漫才、コント、落語、すべての笑いの生みの親、そう、我こそは……」

この自己紹介のくだりをひとしきり披露した後、池崎さんはよりセクシーになるためにセクシー増強装置に入りました。そして、立ち上る煙の中から現れたのは、池崎さんの格好をした俳優の斎藤工さんでした。この「サンシャイン斎藤」の活躍は視聴者に大きなインパクトを与え、ネット上などでも話題になりました。

そして、これを受けて、シャープのツイッター公式アカウントが「空前絶後のォォ!!!!超絶怒涛の空気清浄力ゥゥ!!!保湿を愛しッ!!保湿に愛された男ォオオ!!!」などと池崎さんの自己紹介風のツイートを書き込むと、これが大反響を呼び、タニタ、タカラトミーなど他の企業アカウントもこれに続いて「池崎ツイート」で自社のアピールをしてみせました。サンシャイン池崎と「サンシャイン斎藤」の衝撃の余韻はまだまだ残っています。

それにしても、なぜ池崎さんの自己紹介ネタがこれほどまでに多くの人の心を動かしているのでしょうか? その背景にあるのは彼の「伝え方」のうまさです。ネタを効果的に伝えるための工夫が最大限までできているからこそ、それが爆発的に広まっていったのです。

2013年に刊行されてベストセラーになった『伝え方が9割』(ダイヤモンド社)という本があります。著者はコピーライターの佐々木圭一さん。この本の中で佐々木さんは、「強いコトバ」を作るための5つの技術を提唱しています。「サプライズ法、ギャップ法、赤裸裸法、リピート法、クライマックス法」です。それぞれ簡単に説明しましょう。

「サプライズ法」とは「!」を付けたりすることで、言葉のインパクトを高める手法です。

「ギャップ法」とは「これは私の勝利ではない。あなたの勝利だ」のように、正反対の意味のワードを対比させて用いる手法です。

「赤裸裸法」とは「くちびるが震えてる。あなたが好き」のように、体の反応を言葉に変えて印象を強くする手法です。

「リピート法」とは「会いたくて会いたくて震える」のように、言葉を繰り返す手法です。

「クライマックス法」とは、「ここだけの話ですが」などのワードを使って、その後の話を印象的にする手法です。

佐々木さんはこれらの5つのテクニックを使って、コピーライターとして華々しい結果を出してきました。実は、池崎さんはネタの中でこの5つの手法をすべて使っているのです。

「サプライズ法」は言うまでもありませんね。池崎さんは常にハイテンションにネタを進めていくので、すべてのセリフに「!」が付きます。「空前絶後」「超絶怒濤」といった大げさな言葉選びにも「サプライズ法」が使われています。「笑いを愛し、笑いに愛された男」という対比表現は「ギャップ法」です。

「赤裸裸法」に関しては、池崎さんが胸の筋肉の盛り上がりを強調して「ボコ!」という擬音を口にするところで使われています。自己紹介で名前を言いそうで言わない、というくだりを何度も繰り返すのは「リピート法」。「そう、我こそは」で一拍おいてから次のセリフを言うところは「クライマックス法」でしょう。

このように、佐々木さんが提唱する5つの技術がすべて駆使された結果、池崎さんのネタは恐ろしいほどの「感染力」を持つことになったのです。『伝え方が9割』が出版されたのは2013年ですが、池崎さんはそれ以前からあの芸風を貫いてきていますから、これらが重なったのは単なる偶然でしょう。

でも、自らの意志でコピーライター並みの「強いコトバ」を磨き上げてきたからこそ、現在の成功があるわけです。いま世間を騒がせているサンシャイン池崎さんは、その伝え方こそが「空前絶後」で「超絶怒涛」だったのです。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

ラリー遠田の最近の記事