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ノート(19) 裁判所地下の仮監や裁判官による勾留質問の実情

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

~逡巡編(4)

勾留初日(続)

仮監

 大阪地裁に到着した拘置所のワゴン車は、そのまま地下の駐車場に入った。被疑者や被告人を一時的に収容しておく「仮監(かりかん)」とか「たまり」などと呼ばれる施設があるからだ。

 ここは鉄扉や施錠によって裁判所内の他の区画と完全に分けられたフロアであり、拘置所と比べると数は少ないものの、廊下を挟んで左右に単独室(独居)や共同室(雑居)がずらりと並んでいる。

 公判や公判前整理手続、裁判官による勾留質問が始まるまでの間や、終わってしばらくの間、そこで一時的に待つわけだ。

 “拘置所の分室”という位置づけなので、監視や法廷などへの連行要員として、拘置所職員らも詰めている。

 弁護人やその予定者らと接見するための簡易な接見室もある。狭くて数が少なく、室内の声もやや外に漏れるような状況だが、逮捕後、勾留質問の前に接見して相談をしたり、各公判の直前や直後に簡単な打合せを行うこともできるというわけだ。

 地下からの通路やエレベーターは、一般の人から見えない各法廷の裏廊下に通じており、法廷内の奥側に設置された被告人や証人用の扉から直接法廷に入ることができる仕組みとなっている。

 なお、検察庁の地下にもこうした仮監がある。裁判所の場合と大きく違うのは、もっぱら捜査段階で使われるものであり、検察官の弁解録取や取調べを受けるため、警察署の留置施設から連れてこられた後、一時的に待機する場所となっているという点だ。

 特捜部のように検察が警察を使わず独自に強制捜査に及ぶ事件では、連日、担当検察官が被疑者のいる拘置所まで通い、そこにある取調べ室で取調べを行っている。

 しかし、刑事部などそれ以外の部署だと、時には検察官が被疑者のいる警察署まで出向くこともあるが、ほとんどの場合、被疑者を検察庁まで呼び出し、自らの執務室で取調べを行うのが慣例だ。

 自白事件の場合、勾留10日で処理できる事案であれば7~8日目あたりに、勾留20日で処理する事案であれば勾留延長前の8日目あたりと延長後の15~16日目あたりに取調べを行うパターンが多い。

 そのため、検察庁にも、逮捕・勾留した被疑者を一時的に収容しておく仮監が必要となる。

単独室

 警備隊職員らの指示で拘置所のワゴン車を降り、仮監の入り口から仮監のあるフロアに入ると、職員の控室に一番近いフロア手前の単独室まで連行された。自殺防止の観点から、職員の目が行き届きやすい部屋を選んだものと思われた。

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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