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ノート(23) 内側から見た拘置所の取調べ室や控え室の状況、身柄班の一日

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

~逡巡編(8)

勾留初日(続)

【検事調べ室】

 「検事調べや。出てくれるか」

 弁護人との接見を終え、自殺防止房に戻ると、ほどなく刑務官が鉄扉を開けた。

――いよいよ本格的な取調べが始まるのか。担当検事は誰だろうか。

 最高検の長谷川検事に逮捕状を執行された際、取調べは別の検事が行うという話だったからだ。

 拘置所では、検察官の取調べを「検事調べ」と呼び、事務棟にある取調べ室を「検事調べ室」と呼んでいる。大阪拘置所(俗に「大拘(だいこう)」)だと10数室、東京拘置所(俗に「東拘(とうこう)」)だとその倍ほどの取調べ室が、何重もの施錠で外部から隔絶されたフロアの中に、ずらりと並んでいる。

 もっぱら特捜部で「身柄班」と呼ばれる検察官が“第二の職場”として使っており、逮捕して身柄を拘束した被疑者の取調べを連日行ったり、配布された事件記録のコピーなどを読み込んだりしている部屋だ。

 地検の執務室を一回り小さくした感じだが、東拘よりも大拘の方が更に狭い。この部屋には電話がない。

 ただ、東拘の場合、検事調べ室に設置されたパソコンが検察独自のネットワークで地検本庁のサーバコンピュータと接続されており、IDやパスワードを入力してログインすれば、離れた捜査員の間でリアルタイムにメールのやり取りをすることができる。

 例えば、「至急、A社の○○に××のことを確認し、答えを返してほしい」といったものだ。また、大量の証拠物を検討して整理した一覧表など、サーバ上にアップロードされている様々な捜査データにも、簡単にアクセスできる。

 レーザープリンターや施錠式ロッカーも備え付けられているので、供述調書や資料などをプリントアウトしたり、捜査期間中は事件記録のコピーや着替えの衣類などを置いておくことも可能だ。

 他方、当時の大拘の場合、検事調べ室にはパソコンもプリンターもなく、地検本庁から毎回ノートパソコンや簡易プリンター、事件記録のコピーなどを持っていかなければならず、不便だった。

部屋の割り当て

 どの検察官や被疑者に何号室を割り当てるのかは、事件ごとに拘置所側が決める。例えば、複数の被疑者を逮捕した共犯事件の場合、取調べ室への出入りの際にお互いに顔を合わせないようにするため、それぞれ離れた取調べ室が割り当てられる。

 身柄班として拘置所に通い慣れている検事の場合、刑務官らと顔見知りになっているので、希望の取調べ室になるような配慮をしてくれることもある。例えば、前の事件で7号室を利用したら自白を得られて捜査もうまく進んだので、ゲン担ぎで今回も7号室を利用したいとか、できるだけ喫煙室やトイレに近い部屋にしてもらいたい、といったものだ。

 なお、この検事調べ室は、まれに警察官や刑事部、公安部の検察官らも取調べの際に使うことがある。公務執行妨害事件や公安事件など、裁判官が勾留場所を警察の留置施設ではなく拘置所に指定した事案などの場合だ。

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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