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ノート(24) 口が重い被疑者の取調べでは、どのような話題から切り出すのか

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

~逡巡編(9)

勾留初日(続)

冷暖房完備

 大阪拘置所の「検事調べ室」には、自由に温度を設定できるリモコン付きのエアコンが設置されていた。猛暑の夏でも涼しいし、極寒の冬でも温かい。もちろん、そこを“第二の職場”として使う特捜検事や事務官のために設置されたものだが、被疑者にとっても実に快適だ。

 9月下旬とは言え、大阪は最高気温が30度超、最低気温も25度超あり、冷暖房がなく風通しの悪い当時の自殺防止房は、座っているだけで汗がダラダラと流れ、頭もフラフラするほど暑かったからだ。

 話し相手がいない独居房に収容し、面会や手紙のやり取りを禁止することで孤独感を抱かせる一方、連日にわたって長時間の取調べを行い、弁護人ではなく担当検事こそ“味方”だと錯覚させるのは、被疑者を自白に追い込むための常套手段の一つだ。

 それとともに、独居房よりも検事調べ室の方を心地よい空間とすることで、知らず知らずのうちに検事と話をしていたいと思わせ、取調べが待ち遠しくなるような心理状態に陥らせるのも、被疑者を“落とす”ためには重要だ。

教科書通りの取調べ

 僕の取調べを担当することとなった中村孝検事は、このように様々な点で僕よりも優位に立っていた。その上で、彼は、口が重い被疑者に対する初回の取調べとして基本中の基本とも言える話題から切り出した。身上や経歴だ。

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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