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ノート(25) 被疑者を寝返らせるために、検事はどのような説得をしているのか

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

~逡巡編(10)

勾留初日(続)

オーソドックスな取調べ

 担当の中村孝検事は、あえて事件のことを根掘り葉掘り聞かず、今度は君の番だと言って、僕の身上や経歴を尋ねてきた。出身地や生い立ち、家族のこと、検事を目指した経緯や任官後の任地、職務内容、取り扱った事件、趣味などだ。

 比較的話しやすい話題を設定し、まずは検事の前で話をすること自体に慣れさせるのが、取調べの基本だからだ。また、僕との間の信頼関係を構築するという狙いもあったはずだ。

 僕が中村検事に対して「逮捕された事実関係は、認める意向ですので」と述べた上で、「色々と考えるところがあるので、事件後の状況などをお話しすることは少し待ってください。供述調書の作成も、待っていただきたい」と釘を刺していたからだ。

 いきなりガツガツとせず、被疑者の意向を汲んだ上で悠然と構えるのも、被疑者に少なからず“負い目”を感じさせ、何らかの形で“お返し”をしなければならないと思わせるためには重要だ。

 他方、僕は中村検事の問いに答えつつ、逆に彼に対し、その経歴や取り扱った事件の裏話などを詳しく尋ねた。「問いに対して問いで答える」といったやり方で、限られた取調べの時間を浪費させるためだった。

 そうした中で、思いがけない展開が訪れた。

弁護士の接見

 「弁護士が会いに来ているんですが、どうしましょうか」

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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