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ノート(44) 懲戒免職に向けた最高検による手続の実情

前田恒彦元特捜部主任検事
(ペイレスイメージズ/アフロ)

~解脱編(16)

勾留16日目

告知と聴聞

 国家公務員が何らかの不祥事を起こすと、任命権者は、法令に基づき、その者に対して懲戒処分を下すことができる。懲戒処分には、重い順に免職、停職、減給、戒告がある。以下のようなケースに対し、懲戒処分が行われる。

「この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令…に違反した場合」(国家公務員法82条1項1号)

「職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合」(同2号)

「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合」(同3号)

 国家公務員には法令を遵守する義務があるので、もし不祥事が犯罪に当たるものであれば、基本的にこのいずれの理由にも該当する、ということになる。ただ、懲戒処分は対象者に不利益を与えるものではあるが、犯罪捜査や起訴、公判といった刑事手続ではなく、全く別の行政手続に当たる。

 そこで、懲戒処分という不利益を課す前に、懲戒手続の事務担当者が被疑者や被告人と直接会い、事案の内容や弁解などを詳しく聴き取る必要がある。これを「聴聞」と呼ぶ。

 その上で、懲戒の是非や程度などを改めて判断し、再び事務担当者が被疑者や被告人と直接会い、懲戒処分の具体的な内容や異議申立ての方法などを「告知」しなければならない。

 捜査中の事件記録を閲覧することは認められておらず、これを懲戒処分の判断材料とすることなどできないし、特に有罪判決が確定する前は、誰であっても無罪の推定が働き、何よりも慎重さが求められるからだ。

起訴休職

 この点、一般の国家公務員の場合、刑事事件に関して起訴されると、裁判が続く間、休職させることが可能なシステムとなっている。これを「起訴休職」と呼ぶ。

 懲戒の手続そのものは刑事手続と全く無関係に独立して進めることも可能だが、いきなり処分を下さず、いったん起訴休職にして結論を先延ばしにすることで、裁判の経過や結果を見て判断することが可能となるわけだ。無罪推定の原則と、裁判対応などで職務専念義務が疎かになることとのバランスを図ったものと言えよう。

 起訴休職の間、全く職務に従事しないわけだが、それでも無給ではなく、最大で俸給や扶養手当、住居手当などの6割までの金額が支給されることになっているのも、そうしたバランス感覚を反映している。

 厚労省虚偽証明書事件で起訴された担当課元課長や部下の元係長らも、厚労省では、判決確定までの間、起訴休職という取扱いとなっていた。

検察官の場合

 これに対し、検察官には、起訴休職という制度がない。一般の国家公務員に比べて冷遇されているように思えるかもしれないが、むしろ逆で、その身分がより手厚く保護されているためだ。

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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