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わが子に「登校拒否」させる親たちが突きつける日本の教育の現実は?

前屋毅フリージャーナリスト

■増える別の「登校拒否」

わが子に喜んで「登校拒否」させている親たちがいる。そういう親が増えてきているし、そういう親になろうとおもっている親にいたっては、さらに多くなってきている。

登校拒否とは、学校に通わなくてはならない年齢の子どもが学校に通うことを拒否することである。日本には義務教育という制度があり、日本国民である以上は小学校の6年間と中学校の3年間は学校に通うことが義務づけられており、その義務教育を受けさせる義務が親にはある。

義務教育を受ける期間にわが子を学校に通わせない親は、学校教育法で定める就学義務に違反することになり罰せられる。それでも、わが子に喜んで登校拒否させている親たちがいるのだ。

ただし、ここでとりあげる「登校拒否」は一般的な意味とは違う。わが子に登校拒否させている親たちとは、わが子を「インターナショナルスクール」に通わせている親たちのことなのだ。日本の制度による学校には登校拒否させているが、学校には通わせている。その考え方に賛同するかどうかは別にして、「教育」に熱心な親たちであることはまちがいない。

文部科学省(文科省)のホームページには、「インターナショナルスクールについて、法令上特段の規定はないが、一般的には、主に英語により授業が行われ、外国人児童生徒を対象とする教育施設であると捉えられている」と説明されている。そして、ここが肝心なのだが、「インターナショナルスクール等に通っても就学義務の履行とは認められない」ともある。だからインターナショナルスクールにわが子を通わせても、就学義務違反になるのだ。

文科省によれば、2005年5月段階でインターナショナルスクールの小中学校部門に通う日本国籍を有する子どもは2156人いることになっている。しかし、この数字が正確かどうかについては疑問がある。

■実態を行政は知らない、知りたくない

インターナショナルスクールに通っている東京都内在住で日本国籍のある子どもたちの数を東京都庁に訊いてみると、「数は把握していない」という答えが戻ってくる。その実態も、「調査していない」という。

それならば区役所に訊いてみることにして、ある区役所に連絡すると「そういう子どもはいるらしい。しかし、実態は把握していない。各学校の校長の判断に任せている」との答えだった。

判断を任された校長こそ迷惑な話だろう。なにしろ校長には、権限がありそうで、実際にはないからだ。区の教育委員会や文科省の方針を実行するのが校長の役割である。国も自治体も決めていないことを校長が独断でやることはできない。やれば、きっとたいへんなことになる。

では、就学義務違反のケースに学校はどう対処しているのだろうか。インターナショナルスクールに小学生の子ども通わせている親が次のように教えてくれた。「長期欠席ということになっているみたいです。4月になると学校の先生が新学年の教科書を届けてくれますけど、うちの子がインターナショナルスクールに通っているのは知っていますから、それ以上に何か言われることはありません」。

学校としては、長期欠席にして在籍していることにしているわけだ。見て見ぬふりをしているにすぎない。それで卒業の年になれば、長期欠席のまま卒業ということになるのだろうか。

高校もインターナショナルスクールにいった場合(小中とインターナショナルスクールに通った子の大半は高校もインターナショナルスクールだ)、大きな問題がでてくる。文科省の認めた高校ではないから、インターナショナルスクールを卒業しも、大学受験資格がない。日本の大学を受験できないのだ。

■インターナショナルスクール選択は日本の学校否定

もちろん、インターナショナルスクールに通っている子も、その親も、日本の大学を受験できないことなどハナから承知だ。むしろ、日本の大学に進まないためにインターナショナルスクールを選んだのだ。その理由を、別の親が語る。

「東大にはいったとしても、東大は世界的には下のランキングでしかありません。そこを卒業したからといって国際的に認められるわけではありません。英語も話せないし、世界に通用するコミュニケーション能力も身につけられない教育内容では、国際的な舞台で幸せにはなれません。だから、インターナショナルスクールに通わせて、卒業したら留学させます」

日本の最高学府…じゃ、なかった…最難関校といわれる東大(東京大学)でさえ国際的には評価されていないことが、すでに問題視されている。東大がそうなのだから、他の日本の大学は言うに及ばず、である。「そんなところにわが子をいれてどうなる?」というわけだ。だから、就学義務違反を犯しても、わが子をインターナショナルスクールに通わせるのである。

ただし、インターナショナルスクールに通わせるにはカネがかかる。文科省が認可していないために助成金をもらえないので、インターナショナルスクールは運営資金を自前で調達しなければならないからだ。そのため学費は年間200万円以上もかかり、それ以外にもかなりの出費が必要となる。

わが子に登校拒否させるには、かなりの収入が前提となる。登校拒否させたくても、「普通の家庭」では無理ということらしい。ここでも格差はひろがっている。

どうするのか。誰でもインターナショナルスクールに通えるようにしろ、などということではない。見放されつつある日本の大学、日本の教育の現実を見据え、これからどうするのか、本気にならなければならないところにきている。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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