Yahoo!ニュース

福島の子どもたちの体力低下、東電や国は責任をとれるのか?

前屋毅フリージャーナリスト

■走りがぎこちない子どもたち

福島県内に住む方から聞かされた。ジャングルジムに上手に登れなかったり、運動会で最後まで走れない子どもたちが福島県内では目立ってきているというのだ。

原因は運動不足である。東京電力福島第1原発事故によって放射線物質が大量に拡散し、特に福島県内ではいまだに放射線量の高い状況が続いている。そうしたなかで放射線の影響を心配し、子どもたちは屋外でじゅうぶんに遊ぶことができないでいるのだ。

『福島民放』(2012年10月21日付)も、「7月に1日30分に限って屋外活動を再開した郡山市のある幼稚園では、屋外に出た園児がすぐ転んだり、走り方がぎこちなかったりするのが目に付くという」と伝えている。

苦肉の策として砂場や遊び場を室内につくる幼稚園や保育園もあるようだが、おもうぞんぶん体を動かすのは、そこでも無理だろう。このままでは、福島県内の子どもたちの体力低下は避けられない。

いくら東京電力でも、子どもの体力低下の補償はできまい。補償の対象にはいらない、というのではない。後になっていくら金銭を積まれたところで、失った体力、体力がなければできなかった経験は取り戻せない、ということだ。

■効果に疑問の除染作業

国や自治体は、除染作業によって原発事故前の環境に戻るかのようにアピールしている。しかし除染作業を始めて1年が過ぎた福島市でも、作業が「完了」したとされているのは対象住宅の9.1%にすぎない。空き地や森林など計画さえ追いつかないところも多い。

除染作業をやったとしても、雨や風で元に戻ってしまうということも早くからわかっている。「何度でもやればいい」と自治体の担当者たちは口をそろえるが、いつ終わるかわからない作業に望みを託すわけにはいかない。子どもたちの大事な時間は、日々刻々と流れいっているのだ。

除染作業の効果には疑問視する声が強い。除染して効果があるのなら、さっさとやればいいだけのことだ。それができていないのは、作業をやっている国や自治体が効果のある除染作業を探しあぐねているからにほかならない。

野田佳彦首相は10月7日、福島県内の除染作業の現場を視察し、除染作業を加速させるため、長浜博行環境相に除染作業を加速化させる方策を早急にまとめるよう指示した。そんな指示をしなければいけないくらい除染作業は暗礁に乗り上げている、と指摘する声もある。

こんな状態では、福島の子どもたちが外で元気に走りまわり、ジャングルジムだろうが何だろうが力強く登っていく姿を見せる日は遠のくばかりというしかない。いま必要なことは、子どもたちの健康を守ることだ。効果があるかどうか疑問だらけで遅々として進まない除染作業に巨費を注ぎ込むことより、子どもたちの健康を守るために有意義な予算の使い途を考え、実践することである。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

前屋毅の最近の記事