狐につままれたような「ふくしま集団疎開裁判」高裁決定

前屋 毅 | フリージャーナリスト

■混乱ぶりを示す時間のかかりよう

いわゆる「ふくしま集団疎開裁判」で仙台高等裁判所第2民事部は4月24日、ようやく決定を下した。結論は抗告人らの申立を却下するというもので、その「理由」は抗告人の弁護人を務める柳原敏夫弁護士などが「狐につままれたよう」とか「ちんぷんかんぷん」と感想を述べる内容だったが、実は注目すべき「認定」もしているのだ。

東京電力福島第一原子力発電所事故(福島第一原発事故)が起きてから3ヶ月後の2011年6月24日、福島県郡山市の小中学生14名が郡山市を相手取り、空間放射線量の高い郡山市内の学校での教育活動を中止し、放射線量の低い地域での教育活動を要求する、という仮処分申請を福島地方裁判所郡山支部に行った。これが、「ふくしま集団疎開裁判」と呼ばれている訴訟である。

郡山市は東日本大震災による直接的な被害は少なかったものの、福島第一原発事故によって拡散された放射能汚染を強く受けている地域だ。表面的には市民生活も学校生活も普段と変わりなく行われているのだが、線量計で測ってみれば驚くべき数値を示すところだらけである。

そんな環境で郡山市が教育活動を続けることは子どもたちの生命・身体・健康を侵害することになり、人権を侵害する行為である、というのが抗告人の主張だ。だから、安全な場所に移して、つまり「疎開」させて教育活動を続けてほしい、と要求している。

この仮処分申請を2011年12月16日、福島地裁郡山支部は却下した。そこで抗告人は12月27日、仙台高裁に異議申立を行ったのだ。

仙台高裁は今年の1月21日までに審理を終え、弁護団は遅くとも3月末までには間違いなく決定が出るものと予想していたのだが、予想に反して決定はなかなか出ず、ようやく4月24日に出たのだ。この時間のかかり様は、裁判所内の混乱ぶりを表している。

そして、結論こそ「却下」だったものの、その「理由」にかかれていることは注目に値する。これまでの国や福島県、郡山市が説明してきた内容をひっくり返すことになっているからだ。

■「集団疎開しかない」と言い切る仙台高裁

仙台高裁第2民事部は、決定の「理由」で次のように書いている。「積算の年間の空間線量が1ミリシーベルトを超えた地域及びこれを超えることが確実に予測できる地域において教育活動を行った場合、抗告人らが放射線障害によるがん・白血病の発症で生命・身体・健康を損なわれる具体的な危険性があり、この点は同種の原発事故であるチェルノブイリにおける原発事故の被害状況と対比してみれば明らかというべきである」

空間放射線量が年間1ミリシーベルトを超える地域は子どもたちにとって危険だ、と断定している。これまで国や福島県、郡山市などは「年間1ミリシーベルトを超えても、ただちに健康に影響はない」という姿勢をとってきた。それどころか、空間放射線量が高くても安全だと、あの手この手でアピールしてきていたのだ。そうした国や地方自治体の姿勢を仙台高裁はあっさりと否定し、「危険性は明らか」と断定している。

そして、「しかるに、国・地方公共団体がその費用により集団疎開措置を施さない限り、上記事態を打開できず、ほかに実効的手段はない」と、仙台高裁は続けている。子どもたちが危険から逃れるためには国や郡山市が集団疎開させるしかない、と言い切っているのだ。

これを読めば誰でも、仙台高裁は抗告人が要求している郡山市による集団疎開を認めた、と思うはずである。抗告人の申立は認められて、裁判は抗告人の勝利、と受け取るはずである。しかし結果は、前述のとおり「却下」だったのだ。

■ちんぷんかんぷんの結論

仙台高裁の決定における「理由」は「当裁判所の判断」というところになって、がらりとトーンが違ってくる。簡単にまとめると、「学校だけでなく郡山市内が高い空間放射線量にあり、抗告人が求める教育活動の差し止めをしてみても、郡山市内で生活するかぎり低線量被爆は避けられない。だから抗告人の請求権は認められない」というのだ。

だからこそ、郡山市内ではなく空間放射線量の低い地域での教育活動を抗告人は求めているのだ。それに対して仙台高裁は、「抗告人の主張する被ばくを回避するためには転居するほかないが、転居することに格別の支障があるとは認められないし、転居先の公的教育機関による教育を受けることには特に妨げもないはずであるから」と書く。つまり、自主的に避難して避難先での教育を受ければ済むことだ、といっているのだ。

国や郡山市による集団疎開の必要性を認めたことなど忘れてしまったかのように、「自主避難すれば済むことだ」といっているわけだ。問題を郡山市、ひいては福島県の子どもたちの問題であることに背を向け、抗告人個人の問題にすることで、郡山市に責任はないという結論にむすびつけている。それとて、理屈になっていない。

放射線による危険性を認め、集団疎開は必要とまで書いた前文は、いったい何だったのか、といわざるをえない。弁護団の柳原弁護士でなくとも、「ちんぷんかんぷんだ」といいたくなる。

とはいえ、郡山市の子どもたちが低線量被ばくの危険性にさらされており、集団疎開の必要がある、と仙台高裁が認めたのも事実である。それは、郡山市だけでなく、福島県のすべての子どもたちを守るうえで、波紋を投ずることになるだろう。

前屋 毅

フリージャーナリスト

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。経済、社会、教育の問題をテーマに取り組んでいる。著書に『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『洋上の達人-海上保安庁の研究-』『学校が学習塾にのみこまれる日』『日本の小さな大企業』などがある。

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