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教育現場を萎縮させるだけの教育委見直し

前屋毅フリージャーナリスト

安部首相の発言には、納得できないものがある。

2月17日の衆議院予算院会で安倍晋三首相は、教育委員会制度の見直しについて「最終的な責任の明確化できていない現状を変えていく必要がある」と述べたそうだ。責任が明確化されれば、教育委員会制度が有意なものとなり、教育は改善される、といわんばかりである。的がズレている。

そもそも教育委員会制度の見直し問題は、2011年9月に滋賀県大津市で起きたいじめが原因の自殺事件をきっかけにしている。自殺した中学生は、いじめの事実を学校側に報告していたが、学校も教育委員会も動こうとしなかった。しかも教育委員会は、当初、自殺の原因をいじめではなく家庭環境の問題と説明していたのだ。これには非難が集中し、教育委員会そのものに問題がある、となったのである。

その結果、地方自治体の首長や教育委員らがメンバーとなる「総合教育施策会議」(仮称)を新たにつくることを2月13日に政府と自民党は合意している。この案を盛り込んだ地方教育行政法改正案を、政府は今国会に提出する方針で、「これを成立させる」という決意が先の安部首相の国会答弁というわけだ。

総合教育施策会議は首長がトップとなり、教育長、教育委員、有識者らが、これを補佐したりチェックする役割となる。つまり、教育について首長の権限が強化されるということでしかない。

問題が起きれば首長が責任をとることになるので問題は起きない、ということなのだろうか。そんなわけはないだろう。

首長は責任をとりたくないはずだ。だから、問題を起こさせないように、徹底した管理体制が敷かれるようになることは想像に難くない。教育現場は、ますます萎縮することになる。萎縮した現場で、ほんとうに子どもを育てていく教育ができるのだろうか。

そして、首長の権限が強まることで何が起きるのか。全国学力テスト(全国学力・学習状況調査等)の順位に首長たちが神経をとがらせていることは、あらためていうまでもない。徹底した管理体制の下で、全国学力テストで上位を勝ちとる取り組みが、これから学校現場では熾烈化していくだろう。それで、いじめはなくなるのだろうか。ほんとうに子どもたちは成長していけるのだろうか。心配である。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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