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「土曜授業」脅迫事件には保護者も責任あり

前屋毅フリージャーナリスト

千葉県野田市の土曜授業をめぐる脅迫事件で、市の現役教員が逮捕された。今年度から導入された土曜授業について、この教員は「今すぐ土曜授業をやめろ」などの内容の脅迫状を市教育委員会に送りつけていたそうだ。

同教員は勤続25年のベテランで、教務主任を務め、若手教員の指導にも熱心だったという。つまり、「真面目な先生」というわけだ。

最近の教員は忙しすぎる、とよくいわれる。真面目であれば、その忙しさも人一倍だったのだろう。そこに土曜授業が導入され、ますます忙しくなり、「土曜日がつらい」とこぼしてもいたそうだ。その忙しさの内容はともかく、本人にしてみればブラック企業に勤めている心境だったのかもしれない。

だからといって、脅迫状を送りつけるという行為が正当化されるわけではない。発想そのものが幼稚だし、ベテラン教員の行為とは信じがたい。こういうレベルの教員が学校教育に携わっていたこと自体が大きな問題ともいえる。

ともかく、一連の報道をみていると、『読売新聞』の次の記述が気になった。「市教委によると、土壌授業導入後に行った教職員と保護者らへのアンケート調査では、『学力向上に役立つ』と肯定的な意見は、教職員が4割、保護者が8割だという」(8月20日付 電子版)

現場の教職員は「あまり効果はない」といっているのに、保護者は圧倒的に支持しているのだ。今年になって導入された土曜授業で、保護者が評価するくらい子どもらの学力が急に向上したとは想像しにくい。

なのに、なぜ保護者は土曜授業を支持するのだろうか。たぶん、「学校に行けば子どもたちは勉強するにちがいない」という思い込みが強いからではないだろうか。学校は子どもたちに勉強させて、学力を向上させるのは当然だ、というわけだ。だから土曜日も授業をやったほうがいい、となる。

要するに、責任をすべて学校に放り投げたいのだ。行政は住民の機嫌をとりたいから、放り投げられた責任を学校に受けとめさせる。それを保護者が評価しているというアンケート結果をみて喜んでいる。やらせるほうは気楽だ。

学校の現場はたいへんだ。土曜授業をやるにしても、教員が増員されるわけではないので、余計な仕事が増えるだけで、責任も重くなる。これでは、爆発したくもなるだろう。

脅迫事件が起きたについては、現場の状況と教育の現状を深く考えようともせず、なんでもかんでも学校現場に放り投げる保護者と行政の姿勢にも大きな原因があることを真剣に考えてみる必要がありそうだ。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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