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中国から逃げ出す日本企業、日本経済の活性化につながるか

前屋毅フリージャーナリスト

中国は5日、2015年の国内総生産(GDP)の成長目標を7%前後とし、3年ぶりに引き下げると発表した。中国経済が低迷しつつあるのはあきらかで、日本企業が中国から日本へ国内回帰する傾向を強めていることも、その現れである。

キヤノンはカメラやプリンターの国内生産比率を2年後に、現在の4割から5割に引き上げる方針を明らかにしている。パナソニックやダイキン工業も、中国生産の家電の一部を国内に移していくという。

さらに電子部品大手のTDKも、中国からの撤退を表明している。そのため、秋田県に約250億円をかけて新工場を建設する予定だ。

国内回帰傾向が強まっている背景には、まず中国における賃金水準の急激な上昇がある。過去10年間で3倍以上になったともいわれている。低賃金で日本や西欧企業の進出を誘い、それで雇用も増えて急成長も達成したものの、成長したために優位性が薄れて、撤退を加速しているというわけだ。

そのため中国では賃金未払いや倒産による失業など、労働環境が急速に悪化している。加熱した労働争議のために、死亡事件まで起きる状況にまでなっている。

日本企業の国内回帰のもうひとつの背景としては、円安がある。円安が定着すれば輸出に有利となるわけで、かつて円高で日本企業が雪崩をうって中国に進出したのと逆の現象が起きつつということになる。

こうした国内回帰が日本経済復活につながる、と手放しに歓迎する意見もある。もちろん、国内での生産が増えれば、雇用も増えて景気浮揚につながるかもしれないのだから、国内回帰に反対することはない。

ただし、単純に生産拠点を移すだけの国内回帰では、たちまち行き詰まってしまう、ということを忘れてはならない。中国での生産が停滞しはじめているのは、世界的に需要が落ちていることに最大の原因がある。

その需要を回復するためには、これまでと同じかたちでの供給の継続ではない。いま求められているのは量の供給だけではない。「モノが売れない時代」が世界的になっている現在、新しさと質を提供できなければ消費者には受け入れられない。

国内回帰が量の供給だけを前提にしているのなら、日本経済の回復には役にたたない。せっかく国内回帰するのなら、量だけでなく、新しさと質の充実を実現する国内回帰にすべきである。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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