ベアは労使関係悪化の象徴でもある
春闘で大手企業を中心に大型ベア(ベースアップ)の実施が続きそうな状況だが、そもそもベアが復活したことに問題がある。
トヨタ自動車では前年実績(2700円)を上まわる4000円前後での調整が労使ですすめられているし、電機大手では2000円を超えるのは確実とみられている。味の素は、すでに2000円のベアで労使が妥結したと発表している。賃金が上がれば消費も活発化して景気にも好影響をあたえるだろうから、歓迎すべきことだといえる。
しかし問題は、なぜ、またもやベアが春闘の柱になったのか、ということである。2000年代後半から企業の業績低迷を背景に、ベアの要求を見送りする労組(労働組合)が急増した。トヨタ自動車にしても、昨年になってベアを復活させたが、じつに4年ぶりだった。
ベアの要求が見送られたのは、「会社の業績が悪いのだから賃上げ要求も無理」という労組のものわかりのよさもあったのだが、一方では、「業績がもちなおせば賃金に還元する」という経営方針を受け入れたからでもあった。労使の信頼から、ベアは見送られたのだ。その信頼関係を経営側が尊重するならば、春闘でのベアなど関係なく、賃上げを実施すべきだった。
ところが、「まだカネをためたいなんて、ただの守銭奴にすぎない」と今年初めに麻生太郎財務相が批判したように、企業は内部留保を蓄積することばかりに熱心で、賃金への還元など無視に等しい状況だった。経営側は、ベア見送りにおける労組との信頼関係を裏切ったといえる。
そして、昨年あたりからのベアの復活となったわけだ。つまり、業績がもちなおしても利益を賃金に還元しいない経営側の信頼関係を裏切る姿勢に、労働側ががまんできずに突きつけたのが、ベアの復活というわけだ。
大手中心といえども、ベアの復活で賃金の上昇に明るさがもどりつつあるのは喜ばしい状況なのだが、これを労使の信頼関係崩壊の象徴ととらえれば、労働環境の先行きは決して明るくないことになる。