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学校の存在を揺るがすかもしれない馳文科相

前屋毅フリージャーナリスト

10月7日に第3次安倍改造内閣が発足したが、そこには安倍晋三政権の目指す教育の姿がより鮮明となってきた。

安倍政権の競争主義的な教育方針を引っ張ってきた下村博文が退き、元副文部科学大臣の馳浩が文部科学大臣(文科相)に起用された。下村が退いたことで安倍政権の教育政策にも変化が現れるのではという期待もあるかもしれないが、期待はずれというしかない。

馳は、9月27日に閉会した第189回通常国会に、いじめや学校に馴染めないといった問題で不登校になっている子どもたちが通うフリースクールなどでの学習を、一定の条件を満たせば学校教育を終えたとみなす法案を提出するための準備を着々とすすめていた。ところが直前になって、「学校の存在価値を揺るがしかねない」との意見が自民党内からでたために、直前になって法案提出を断念した。

とはいえ、廃案にするつもりはないようだ。今度は文科相という立場もあり、法案提出、法制化に一気にでてくる可能性は高い。

馳の案が法制化されてフリースクールなどが学校とみなされるようになれば、フリースクールに行かざるをえない子どもたちを放っておいた学校の責任が問い直されることになるだろうし、学校の存在そのものに疑問をもたれるきっかけにもなりかねない。

そして、学習塾をはじめとする教育産業にとっては、新たなビジネスチャンスとなる。フリースクールなどでの学習が学校修了と見なされるようになれば、学校よりフリースクールを選ぶ子どもたちが増える可能性がでてくる。そうなれば、こぞって学習塾などがフリースクール経営にのりだしてくるだろう。

馳の案に期待しているのは学習塾だけではない。現在は「学校」として認められていないインターナショナルスクールも、一躍、表舞台に躍り出るチャンスをつかむことになる。

インターナショナルスクールは現在、一部が各種学校として認められているものの、ほとんどが無認可校である。ここの小学校や中学校を卒業しても、日本の義務教育を終了したとはみなされない。インターナショナルスクールに子どもを通わせている親は就学義務不履行に問われる。

そのインターナショナルスクールも、馳案が実現して一定の条件をクリアすれば、日本の学校と同等の地位を手にいれられる。日本人の子どもたちも堂々とインターナショナルスクールに通い、親も通わせることができるようになる。

それを安倍政権としても後押ししているとおもわれる人事が、内閣改造の前日、10月6日に発表された。内閣府の教育再生実行会議の新しい有識者メンバーが発表されたのだが、18人のうち2人もインターナショナルスクール関係者がくわわっている。これまで「正式な学校」として認めてこなかったインターナショナルを、日本の学校として認めていくための路線づくりのひとつとも考えられる。

これまで学校として認められていなかったフリースクールやインターナショナルスクールを学校として認めていく道を開く馳文科相の腹案は、今後の学校のあり方、教育のあり方に大きな影響を与えていくことになるだろう。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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