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通知表の無い公立小学校

前屋毅フリージャーナリスト

公立小学校であれば「通知表」は決まりもの、と考えてしまいがちだ。しかし、通知表のない学校がある。それが、長野県伊那市の市立伊那小学校だ。

同校が通知表を廃止したのは1956年のこと、いまから60年近くも前のことである。以来、伊那小学校には通知表が存在していない。

廃止前までの同校の通知表は、「劣る、やや劣る、普通、良い、たいへん良い」の5段階で評価していた。それには、次のような問題があると伊那小は考えた。

「一学級の中で上・中・下のだいたいの見当はつくが、その中で自分の子どもの長所、欠点、学習でのつまづきとその原因まで知ることはできない。子どもの具体的な成長、日々の努力に目を向けないで結果だけにとらわれてしまう。しがって指導する場合に、どこがどのようにいけないか、今後どうすればよいかという励ましや具体的な指摘ができない。子どもも、自己の成長という視点よりも、誰よりも『たいへん良い』がいくつ多かったというように量としてのとらえしかできない」(『伊那小学校百年史』)

この反省は、いまの教育にもあてはまるのではないだろうか。ただ量と点数だけの評価に、現在の教育はひっぱられすぎている。その結果、子どものほんとうの成長に目が向けられなくなってしまう。それでは、子どもを育てることにならない。

そして、伊那小学校では通知表を廃止した。かといって保護者に子どもの成長ぶりを報告するのをやめたわけではない。学期末に保護者との懇談の場が設けられ、個別に、丁寧に、子どもたちの成長についての報告が行われ、教員と保護者が意見を交換している。それは、現在でも続いている。

点数や5段階に分ける方法は、評価のやり方として簡単である。わかりやすい。ただし、それが、ほんとうの姿を評価したことにはならない。教育における評価は、他との比較ではなく、一人ひとりを伸ばしていくためのものでなくてはならないはずである。

評価のあり方、通知表のあり方を再検討すべきだ、とおもう。それは、無理なことではない。なにしろ、なにかと縛りの多い公立でありながら、通知表を廃止している小学校があるのだから・・・。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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