排ガス不正問題で窮地にたつ独フォルクスワーゲンが中国では好調
アメリカの11月における新車販売台数(米調査会社『オートデータ』調べ)が明らかになり、全体としては14年ぶりの高い水準だったが、排ガス不正問題の影響で独フォルクスワーゲン(VW)だけは惨憺たる結果だった。そのVWが、中国では復調基調にある。中国とドイツの関係が近くなっていることを示しており、中国の対米戦略の一環とも受け取られている。
11月の米国新車販売台数は131万9913台で、前年同月比では1.4%増だった。これは、11月としては2001年以来の高い水準である。
そうしたなかでVWは2万3882台と、前年同月比24.7%減となった。9月に排ガス不正問題が発覚してから同社の販売台数が前年同月比でマイナスになったのは初めてのことで、「VW離れ」が鮮明になっているといえる。世界的にも同じ現象がすすみつつあり、VWは最大の危機に直面している。
ところが中国では、現地企業との主力合弁会社である上海VWの10月における新車販売台数は前年同月比10.1%増で、同じく一汽VWも3.3%増となっている。排ガス不正問題が発覚したのは9月18日で、そのころのVWの中国における販売は低調傾向にあった。それが10月になって前年同月比を上まわったということは、問題発覚で世界が示した反応とは逆である。
そうなった理由については、中国で排ガス不正問題が大きくとりあげられなかったことが大きいという。そもそも中国ではディーゼルエンジンの採用は希であるために、ディーゼルエンジンについての不正問題に中国国民の関心が薄かったこともあるが、中国政府が意図的に大きく報道されるのを抑えたとみられている。
中国政府が国内で自動車製造業の育成をはかりはじめたとき、最初、トヨタ自動車に進出を依頼したが、同社は躊躇した。代わって積極的に協力したのが、VWだったのだ。それからVWと中国政府は密接な関係を続けてきており、その関係から中国政府は不正問題が騒がれるのを抑えたといわれる。
さらには、中国におけるVW関係の雇用は約9万人、販売店も含めると約50万人に及んでおり、もしも中国でVWが不振に陥れば、この雇用にも深刻な影響を与えかねないとの懸念も中国政府にあったはずだ。
もうひとつには、中国をとりまく世界情勢がある。南シナ海で中国がすすめる人工島をめぐり、アメリカをはじめ日本、そして東南アジア諸国が警戒感を強めている。このままでは中国は孤立してしまいかねず、そうした事態を避けるためにはヨーロッパとの関係強化をすすめるしかない。
つまり、排ガス不正問題で叩くのではなくVWを支援し、ドイツとの関係を良好にしておいたほうが、中国にとってはメリットが大きいというわけだ。実際、10月末にはドイツのメルケル首相が北京を訪問し、中国工商銀行はVWに金融支援するなど、排ガス不正問題で両国は関係を強める結果となっている。
これが今後、日中の政治的にも経済的にも影響を及ぼすことになるだろう。