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おかしいのは文科省か学校か

前屋毅フリージャーナリスト

馳浩文科相の4月20日の発言に、「現状を知らなすぎる」との声が学校現場から起きている。

問題の馳発言は、記者会見で「私は今日、憤りを抑えながら話をしている」という表現をまじえながらのものだった。全国学力テスト(全国学力・学習状況調査等)に関して大臣は、「私のもとに『成績を上げるため、教育委員会の内々の指示で、2,3月から過去問題をやっている。おかしい。こんなことをするために教員になったのではない』と連絡をいただいた」との「内部告発」を披露。続けて、「成績を上げるために過去問題の練習を、授業時間にやっていたならば本末転倒だ。全国各地であるとしたら、大問題で本質を揺るがす」と怒りを爆発させたのだ。

この発言に、少なからぬ学校関係者が驚いた。全国学力テストは「建前」としては学習状況の把握が目的とされているが、その順位を都道府県、各学校が必死になって争っているのが現状だ。そのために、過去問題をやらせるなど学校が「対策」を講じているのは、もはや「常識」でしかない。それを知らないかのような大臣の発言は、学校関係者にとっては、あきれるものでしかないのだ。

しかも、こうした競争が激化した原因には、文科省が都道府県ごとの順位を発表していることが大きい。つまり、文科省自体が競争を煽っている。その文科省のトップによる競争批判の発言なのだから、さぞや学校関係者は複雑な思いで受け取ったにちがいない。

ともかく、大臣が全国学力テストで点数を上げさせる「対策」について怒りの発言をしたのだから、文科省として何もしないわけにはいかないだろう。そこで問い合わせてみると、「大臣も過去問題をやらせること自体を問題にしたわけではありません」との答が返ってきた。

さらに、「全国学力テストの問題は『良問』といわれているものばかりですから、それを活用していただくのはかまわない」と学校で過去問題をやらせることについては、むしろ肯定する答が戻ってきた。では、大臣は何について怒ったのか。それに対する、文科省の答は次のようなものだった。

「テストの直前の2月や3月に、点数を上げるためだけに過去問題をやらせるのはダメだという発言です」

確かに、正論ではある。正論ではあるが、現実を無視した正論でしかないのは明らかだ。文科省も意図しているのかいないのか、競争を煽るように仕向けているのは事実で、そうした実態を放っておけば、過去問題をやらせるなどの対策はエスカレートするばかりなのは明らかだ。

しかし文科省は、「どういう意図で全国学力テストを実施しているのか、各教育委員会や学校に徹底させるかを内部的に検討しているところです」と答えるばかりである。まるで、「悪いのは学校だ」と聞こえる。こんなことでは、全国学力テストが競争の道具になっている現実は変わらない。それを認識し、改める姿勢こそが文科省には必要だ。もっとも、全国学力テストで競争を煽るのが文科省の本音ならば、なんら反省するところはなく、「意図したとおり」ということなのかもしれないが・・・。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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