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学力には敏感に反応しても教育環境については無視する日本政府

前屋毅フリージャーナリスト
(提供:アフロ)

日本の教育が「ゆとり」から再び「学力重視」へと振り子を戻したのは、2003年12月に発表された学習到達度調査(PISA)の結果について、「日本の子どもたちの学力が低下した」と受け取られたことがきっかけだった。PISAはOECD(経済協力開発機構)による国際的な学力調査である。その結果が悪かったことで、文部科学省(文科省)は学校での授業時間を増やしたりの学力重視策へと舵をきったのだ。

国際的な位置を異常に気にするのは、文科省にかぎらず、日本全体にいえる特徴なのかもしれない。PISAの結果を受けて学力重視へ方向転換したのは、文科省だけでなく産業界をはじめ、日本全体が大騒ぎしたからである。

学力に監視しては敏感に反応したにもかかわらず、同じOECDの調査結果にもかかわらず、日本政府と文科省が無視しつづけていることがある。それは、教育環境だ。

今年9月15日、OECDは教育に関する調査報告書「図表でみる教育2016年版」を世界同時に発表した。

それによると、日本におけるGDP(国内総生産)に占める教育機関への公的支出の割合は3.2%でしかなかった。これは比較可能な33ヶ国中で、下から2番目の32位という結果である。

最も高かったのはノルウェーで、6.2%である。倍近くの開きがあるわけだ。

そして、教員の労働時間については、どの国よりも日本は長かった。幼・小・中・高校の全校種の教員では年間1891時間と、OECD加盟国での平均は前期中等教育段階の1609 時間と比べても格段に長いことがわかる。

さらに1学級の児童生徒数だが、これも加盟国のなかでは多かった。2014年時点での小学校の1学級あたりの児童数は27人と、中国の30人に次いで2番目に多い数だ。日本は下から2番目の位置づけということになる。

つまりOECDによる国際調査によって日本の教育は、カネをかけずに、教員に大きな負担を強いる、子ども一人ひとりには目の行き届かない教育、だと指摘されたことになる。実は、今に始まったことではない。同じような結果を、日本はOECDに何度も突きつけられている。

にもかかわらず、日本の政府も文科省も改善に本気で動きだしてはいないのが現実である。OECD調査結果での学力については素早すぎるほどの対応をしながら、教育環境についての結果については「知らんふり」なのだ。

その姿勢こそが問題である。環境を整えないで結果ばかりを求める日本政府・文科省の姿勢は、日本の教育を荒廃させるばかりではないだろうか。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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