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働き方改革が「痛勤」ラッシュを加速させる

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

スカイツリーやディズニーランドも東京名物だが、なんといっても東京の名物は通勤電車のラッシュアワーだ。身動きもできないくらいに詰め込まれた車内で、誰も文句を言うでもなく、沈黙を保ったままに運ばれていく。「痛勤」以外の何物でもない。

そうした安倍政権は、「働き方改革」を大きく掲げている。そのタイトルだけをみると、「痛勤」ラッシュを解消するような、せめて人間並みに通勤できるような環境もつくってくれるのかと想像してみるが、現実は、そうそう甘くなさそうだ。

第1回の「働き方改革実現会議」が9月27日、総理官邸で開かれた。その席で安倍晋三首相は、「『働き方改革』は、第3の矢、構造改革の柱となる改革であります」と述べている。

そして、改革実現改革で取り組んでいく、次のようなテーマを掲げた。

1.同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善

2.賃金引き上げと労働生産性の向上

3.時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正

4.雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定させない教育

5.テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方

6.働き方に中立的な社会保障制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備

7.高齢者の就業促進

8.病気の治療、そして子育て・介護と仕事の両立

9.外国人材の受け入れ問題

これを見るかぎり、政府は痛勤ラッシュを問題にしていない。痛勤ラッシュを問題にしないように、働く側に立った改革でもないことも読み取れる。

1は、非正規雇用を減らすことが目的ではなく、処遇を改善して非正規への流入を促す意図が感じられる。処遇改善といいながら、正規雇用と同等の賃金にするともいっていない。2も、賃金引き上げをいいながら、労働生産性の向上を並列においている。労働生産性を上げるための賃金引き上げ、という観点でしかないのだ。

3以下についても、働く側に立った処遇改善というより、いかにして労働市場に人を引っ張り出して労働人口を増やそう、という意図でしかない。つまり、働く側に立った働き方改革ではなく、働かせる側に立った改革でしかないのだ。

安倍政権の働き方改革が成功すれば、わずかばかりの処遇と引き替えに、働く側は改善されない労働環境のなかで酷使されることになるだろう。働き方改革は、東京の痛勤ラッシュに拍車をかけるような結果にしかならない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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