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「豊洲移転ありき」の小池知事発言に問題あり

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

東京都の小池百合子知事が18日の定例記者会見で、築地市場の豊洲市場への移転について、早ければ2017年冬にも実施する方針を明らかにした。知事が移転時期について言及したのは初めてで、それもあって移転時期だけが注目されたが、その会見のなかで、気になる発言があった。

「豊洲に関しては、風評被害ということも正直あるわけでございまして」と前置きして小池知事は、風評被害の原因が「あの建物地下の滞留水、地下の空間があって、そしてそこに水がたまっているということがビジュアル的にも、また数値的にも様々な不安を呼んでいることだと思います」と述べた。

そもそも建物地下の空間は、本来ならば盛土するはずのところに、それをしないで建物をたてたためにできたものだ。本来あってはいけないものなのだ。それが見つかって、移転直前になって問題がクローズアップされ、移転延期となっている。

しかも、そこに水が溜まっていた。その水は雨水などではなく、地下から湧き上がってきた可能性が高いと指摘されている。そうした水が湧き上がってくるのを防ぐのが盛土の目的であって、ほんとうに溜まっている水が地下からのものならば、東京都が約束している安全性を確保するには盛土をしなくてはならない。しかし盛土がされていないことを問題としてきたにもかかわらず小池知事は、「盛土をして建物をたてなおす」といった発言はいっさいしていない。

さらに地下に溜まった水について東京都は、「ヒ素や六価クロムが検出された」と発表している。雨水にふくまれているはずのない危険なもので、だからこそ会見で小池知事も「数値的にも様々な不安を呼んでいる」と言及しているのだ。

小池知事が言うような「風評被害」ではなく、あるはずのない地下室があったり、あってはならない物質が含まれた水が溜まっているという「事実」が不安につながっているのだ。それを風評被害で片付けようとしている小池知事の発言は、「ごまかし」の臭いがするといわざるをえない。

そして、いちばん気になった小池知事の発言は、「こちらの方はポンプで強制排水を実施することを考えています」という部分である。ビジュアル的に風評被害につながっているので強制的に取り除く、というわけだ。水を見えなくすれば問題はない、と聞こえる発言は聞き流すわけにはいかない。

前述のように、その水は知事自身も「数値的」にも不安につながっているものだとみとめている。知事は、検討が続けられている専門家会議での結論が出たらと前置きしているものの、もしも専門家会議が「問題あり」と結論づけたときの対応策には触れていない。「問題なし」の結論がでたときの「ポンプで強制排除」という策だけを述べているにすぎないのだ。東京都も知事も問題にしている「数値」も、風評で片付けてしまうつもりなのだろうか。

たとえ微量であったとしてもヒ素や六価クロムがふくまれた水が湧き出してくるような土地に生鮮品をあつかう市場をつくることが望ましいのだろうか。その水はポンプで強制排除し、処理して安全性を確保するにしても、その処理過程で問題が起きる可能性は否定できない。安全が確保できるのかどうか疑わしい土地であることは間違いのないことなのだ。

これまで指摘されている問題を「風評被」で片付けてしまう小池知事の発言は、「豊洲移転ありき」が前提になってきているとしかおもえない。いま大事なことは、「移転ありき」に流されず、根本的な安全性を中心にした議論である。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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