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18歳選挙、学校には「模擬選挙」よりやるべき大事なことがある

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

総務省は、昨年7月の参議院議員選挙で実施された18歳選挙権に関する意識調査の結果を昨年末に発表している。全国の18歳から20歳までの3000人を対象に、インターネットで行われた。

その調査結果によれば、「投票に行った」と答えたのは全体の52.5%だったという。その評価にはいろいろあるはずだが、18歳選挙権が認められて最初の国政選挙で注目されたわりには、そんなに高くない投票率だといえそうだ。

調査では、高校のときに選挙・政治関連授業を受けた経験についても訊いている。

その質問に「ある」と回答したのは1748人で、全体の約58%である。半数以上が、高校で選挙・政治関連の授業を受けたことになる。そのうち実際に投票に行ったのは、55.7%である。

一方で、授業経験は「ない」と答えたのは、1172人で全体の約39%を占めている。そのなかで「投票に行った」のは、48.5%となっている。

投票した割合でいえば、選挙・政治関連授業を受けた経験のある人のほうが、経験のない人にくらべて7.2ポイント上まわっていることになる。ここに注目して、高校での選挙・政治関連授業は投票率を上げるのに効果があった、とする意見もある。

ただし、そうした意見を鵜呑みするのは問題だ。

授業を経験したなかで投票に行ったのが58%ということは、授業を経験しても投票しなかった人が42%もいたということである。そして授業を経験しなくても48.5%と、半数が投票している。

つまり、高校における選挙・政治関連授業は18歳投票率を上げるには、あまり関係なさそうなのだ。

それでも総務省は選挙・政治関連授業を重視しているらしく、この「意識調査」と同時に「主権者教育等に関する調査」の結果も発表している。これは「出前授業」の実施状況について調べたもので、高校における2015年度の出前授業の実施校はは2013年度の30倍にもなっていると総務省は強調している。

意識調査のなかの「選挙・政治関連授業」が、この「出前授業」にほかならない。総務省としては、出前授業が昨年の参院選での投票につながった、と言いたいのだろう。

しかし先述したように、「効果がなかった」という見方もできるのだ。なぜなのだろうか。それを考えるには、出前授業なるものの中身を知る必要がある。

出前授業とは、選挙管理委員会の職員などが学校に出向いて選挙制度等について講義するというものだ。典型的なのが、「模擬選挙」である。高校生などに架空の選挙を体験させることで、「投票の仕方」を学んでもらおうというものでしかない。投票の仕方がわかれば投票所に足を運ぶだろう、という考えでしかない。これで投票率が上がるわけがない。

投票率を上げるのに必要なことは、政治への関心が高まること以外にない。投票の仕方を教えたところで、政治への関心は高まらない。

せっかく選挙・政治関連授業をやるのなら、現在の政治について考えさせる機会にしなくてはならない。ひとつの意見を押しつけるのではなく、広く意見を聞いて考えられる力を高校生たちが養える場にすべきである。

にもかかわらず、18歳選挙権実施後の最初の国政選挙を前に文科省は、高校生の政治活動を制限し、禁止することに躍起になった。その文科省方針に黙って従う学校が多かったのも事実だ。

「政治に関心はもつな」と言いながら、出前授業で「投票には行け」と言っているわけだ。せっかく18歳選挙権が認められても、最初から政治不信を抱かせることにしかならない。それでは投票率も上がらないし、日本の政治も善くならない。

「出前授業」をやるのなら、ただ形だけの投票を教えるのではなく、政治を考える力を養うことにつながる授業にすべきである。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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