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企業も学校に不満をもっている

前屋毅フリージャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

「経済同友会はこのほど、中学校・高校での学校教育への期待などを、所属する会員企業に聞いたアンケートの結果を発表した」という記事を、1月13日付けの『教育新聞』が掲載している。

このアンケート結果は、昨年12月21日に経済同友会が公表している「『企業の採用と教育に関するアンケート調査』結果(2016年調査)」のことである。その調査結果によれば、企業が「人材育成の観点から学校教育に期待すること」は、中学校・高校については以下の3項目が上位を占めている。

・対人コミュニケーション能力の養成      86.0%

・ストレス耐性(折れない心・粘り強さ)    68.9%

・基本的生活慣習や社会人としてのマナーの教育 61.7%

ここから想像できるのは、「従順な人材」である。企業にしてみれば、社員は「使いやすい」に越したことはない。だから、こういうアンケート結果がでるのは当然ともいえる。

しかし注目すべきなのは、この上位3項目に続いて、第4位にランキングされている項目である。それは、「自立心の養成」だ。

自立心と従順は、真逆に位置すると考えられる。企業は、真逆のものを同時に学校に求めていることになるのだ。

アンケートには、「学校への期待に対して重要と思うこと」という自由記述式での質問もある。その結果として、最初にあげられているのが「自ら考え、創造性を育む教育」なのだ。いかに企業が学校に対して「自立心を育てる教育」を期待しているかが、ここに現れているといってもいい。アンケート結果には、以下のような意見が紹介されている。

・「考える」教育だけでなく、自ら考えさせ、新しいものを作り出すための機会を与え、発想力を養うことも必要

・自分自身のやりたいことを深く考える機会を提供し、考えた結果を応援する仕組みなど

企業は、これまでやってきたことの延長では成長できない時代に突入している。まったく違う発想と行動がもとめられている。それを担える人材が足りないことに、企業が頭を痛めていることも事実である。

新しい時代の企業を担う人材は、新しい発想と行動のできる「自立心をもった人材」である。だからこそ企業は、従来どおりの「従順な人材」から離れられない一方で、「自立心」の養成を学校に求めているといえる。

これまでの学校は、「従順な人材」を育てることに重点をおいてきた。それは、企業の要望に応えてきた、ことになる。

学校が企業の要望に素直に応える必要はないが、いまの学校は企業の要望にすら応えられない存在になりつつある、といえる。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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