実質賃金上昇に振りまわされない視点が必要だとおもうのです
再確認しておかなければならないのは、安倍首相自身が自信ありげに語る「アベノミクス」が「物価上昇率2%」を大きな目標として掲げていることである。
それについては、「道半ば」どころか「はるか遠くに霞む目標」になっていることは、改めて言うまでもない。いろいろ言葉で繕ってみても、自らが断言した目標に四苦八苦しているのがアベノミクスの現実なのだ。
そして6日、厚生省が2016年の毎月勤労統計調査(速報値)を発表した。それによると、物価変動の影響を除いた16年通年の実質賃金は前年から0.7%増え、5年ぶりのプラスになったという。
賃金上昇は、喜ばしい状況である。しかし、これを「安倍政権の経済政策が成功している」と早合点してはいけない。
たとえば『日本経済新聞』(2月6日付 夕刊)は実質賃金が上昇したことについて、「消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)が前年に比べて0.2%下落し、実質賃金の伸びが名目賃金を上回った」と説明している。
実質賃金は、働く人が実際に受け取る「名目賃金」から物価上昇分を除いた指標だ。物価が下がれば実質賃金は上がり、名目賃金を上まわることになる。
『日経』の記事も、「デフレ局面に特徴的な『名実逆転』」と書いている。モノの値段が下がりすぎるデフレ状況だから、実質賃金が増えたにすぎないのだ。
そこからわかることは、「モノが売れなくなっている」ということである。名目賃金が増えていて、消費者の購買力も上がっていれば物価は上昇するので、実質賃金が名目賃金を上まわることはない。
しかし実質賃金が名目賃金を上まわっているということは、モノが売れない状況になっているということだ。つまり、企業にとっては困った状況なのだ。
モノが売れなくて企業経営が困難になれば、そのうち名目賃金も下がるしかなくなる。かなり不安定な状況にあることを再認識しなければならない。
実質賃金が名目賃金を上まわった状況は、少なくとも、物価上昇率2%の目標を掲げて「デフレ脱却」を叫んでいる安倍首相のアベノミクスの狙いとは、逆の状況となっている。「実質賃金が増えた」という上辺に惑わされず、冷静な視点が必要ではないだろうか。