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教育無償化の財源に国債、の裏にある党利党略

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

間近といわれている総選挙だが、その選挙戦では「教育」が大きなテーマになってくる。そんななかで自民党は、教育無償化の財源を国債でまかなう案の検討をはじめるそうだ。

教育無償化については、もちろん、反対する理由はない。しかし、その財源を国債でまかなうということには、違和感をもたざるをえない。

国債は臨時的な財源だが、教育は普遍的な事業である。普遍的な事業を臨時的な財源で行うという発想に、不自然さを感じないわけにはいかない。

そして、その国債を引き受けるのは、最終的に国民である。新たな負担を国民に押しつける発想でしかないのだ。

選挙戦では、教育無償化は強力な武器になるはずだ。自民党は有利に選挙を戦うことができるだろう。国民に負担を押しつける不自然な案で、自民党は選挙戦を有利に戦おうとしている、と言われてもしかたない。

さらに安倍晋三首相が意欲を示す憲法改正においても、教育無償化を項目としていれる案が自民党内では浮上してきている。教育無償化は憲法で定める必要があり、だから憲法改正が必要だ、ともっていく意図がある。

ただし、教育無償化は憲法を改正しなくても可能なのだ。

現在の義務教育の無償化は憲法26条で謳われているからであり、だから高校や大学などに無償化を広げるには憲法を改正して条文としていれなければならない、というのが教育無償化に憲法改正が必要という理由のようだ。しかし、憲法26条は最低限の要請をしているだけであって、それ以上の無償化を禁止しているわけではない。

教育の無償化の拡大は、憲法を改正しなくても、普通に法律をつくればやれることなのだ。にもかかわらず、憲法改正と無理に絡めるのは、教育無償化という餌で憲法改正という魚を釣りあげようとするものでしかない。

国債でもって安易に財源をつくって教育無償化を選挙戦の武器にしたり、憲法改正のために無償化を利用するやり方は、ほんとうに教育を考える姿勢とは言いがたい。そこに冷静な目を向ける必要がある。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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