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間近に迫った全国学力テスト、なぜ順位に血眼になるのか

前屋毅フリージャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)が近づいているが、全国の小中学校では「対策」に大わらわになっているはずだ。今年は4月18日の実施が決まっているが、それに向けて学校では、過去に出題された問題を子どもたちに解かせたりと、少しでも成績を上げるための「対策」がとられている。そのため、「通常の授業に支障がでる」と不満をもつ教員は多い。

それでも「対策」をやらざるをえない。承知のように全国学力テストの結果はさまざまなかたちで公表され、それによって順位付けがされてしまうのが現実だ。その順位を、どの学校も、市町村も、都道府県も気にすることしきりだ。そのため、少しでも順位を上げようと、必死で対策に取り組んでいるのだ。

こうした対策について、「本来の趣旨と違う」と文部科学省(文科省)は口では制しながら、本気で止めるつもりはない。それどころか、結果を公表することで、競争を煽っている中心的存在だといっていいかもしれない。文科省が煽るのだから、都道府県も市町村も、そして学校も競争を止められない。

なぜ、文科省は競争を煽るのだろうか。その大きな原因が、財務省との関係にある。文科省も予算が無くてはやっていけないが、その予算を左右しているのが財務省なのだ。

教員の過重労働が大きな問題になっているが、それを根本的に解決するには教員の数を増やすしかない。そうすれば教員が子どもたちと向き合う時間も増え、教育の質も向上する。それもあって文科省は、教員の数を増やす計画を毎年のようにつくってきた。

これに、財務省は真っ向から反対しつづけている。財務省方針を正当化する仕組みが財政制度審議会(財政審)である。そこでまとめられた2016年度予算についての「予算の編成等に関する建議」を見ると、教員を増やすことが「教育効果に関する明確なエビデンスと、それに基づく必要な基礎・加配定数の配置を科学的に検証した結果を根拠とするものではない」としている。教員を増やしたからといって教育の質が向上するという根拠はない、というわけだ。

昨年8月にも文科省は、2017年度からの10年間で公立小中学校の教員定数を約3万に増やすという計画をまとめた。これに財政審の「2017年度の予算の編成等に関する建議」は、「現在の教育環境である『10クラス当たり約 18人の教職員』を継続する前提で試算すれば、クラス数の減少に伴い、平成 38年度の教職員定数は約 64万人(対平成28年度比企4.9万人、企7.2%)となる」としている。教員を増やすという文科省の方針に対して、財務省は現状維持でいいから5万人近くを減らせるという姿勢なのだ。

こうした状況を変えるには、力関係しかない。それには、成果である。文科省の施策が成功しているという成果を示せば、財務省としても文科省に反対しにくくなる。

しかし困ったことに、教育は短期間で成果を示せるものではない。そもそも成果を示すこと自体がむずかしい。それでも力関係のためには、目に見えるかたちで成果を示すしかない。そのひとつが、全国学力テストである。全国学力テストの成績が上がることは、文科省の施策の正しさを示すことになり、存在感を増すことにもつながり、財務省との力関係を優位にもする。

だからこそ、文科省は全国学力テストの競争を煽らざるをえない。全国学力テストが本来の目的のために運用され、さらに点数だけにこだわる教育を本来の意味に戻すためにも、成果だけにこだわる財務省の姿勢を変える必要がある。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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