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世界で注目!「”誰かのために”ダイエット」

市川衛医療の「翻訳家」
「パ・リーグ ウォーク」サンプル画像 (C)PLM

適切な体重管理に欠かせない、ウォーキングなどの運動。ただ、一念発起して始めたのに3日坊主で終わってしまう…。なんてこともありがちですよね。実はいま、ある発想の転換によって、運動を続けやすくする取り組みが世界で注目されています。

「応援で健康になる」パ・リーグの新サービス

プロ野球のパ・リーグは本日、各球団のファン向けに、新しいモバイルアプリ「パ・リーグ ウォーク」の提供を始めました。(iOS版Android版

 パ・リーグウォーク画面   左:通常モード 右:対戦モード       サンプル画像 (C)PLM
 パ・リーグウォーク画面   左:通常モード 右:対戦モード       サンプル画像 (C)PLM

アプリをインストールし、年齢・性別・体重そしてお気に入りの球団などの情報を入れると、左側の画面(通常モード)が表示されます。

中央にはお気に入りの球団名。そして左上に表示されているのは「歩数」です。アプリをスマホに入れておくと、自動的に歩数が計測され、記録されていきます。今月歩いた距離がどのくらいなのかなども確認することができます。

と、ここまでは、いわゆる「歩数計アプリ」と変わらないイメージですが、違うのはここから。

お気に入りの球団が実際に、試合を始める時間になると・・・、画面が自動的に「対戦モード」(右側の画面)に切り替わります。

ボールじゃなくて”歩数”で戦う

対戦モードでは、リアル世界で試合を行っている球団同士で、「ファンによる対戦」が行われます。ファン一人ひとりが歩いた歩数が「応援ポイント」となり、その合計によってアプリ上の勝敗が決まります。

つまり自分が歩けば歩くほど、お気に入りのチームを「応援」できるわけです。

パ・リーグはこのアプリにより、「プロ野球の観戦を健康的な行為へ置き換え、球場に来ていないファンも、アプリを通してゲームに参加し、楽しみながら自然と健康になる仕組みを作りたい」としています。

”ハーバード発”健康アプリの狙いとは

このアプリ、アメリカのハーバード大学の研究者が、パ・リーグと共同で企画したものなんですって。ハーバード大学医学大学院で予防医学を研究する鎌田真光さんに、アプリ開発の狙いについて聞きました。

「運動によって様々な病気が予防できることは明らかになっています。でも歩け、歩けと言われてもなかなか継続できないですよね?そこでパ・リーグさんに協力をお願いし、”ゲーミフィケーション”という手法を使うことにしました。お気に入りの球団の試合に”歩く”ことで参加できるとしたら、ヤル気が自然と高まるのではないかと考えたんです。」

ポイントは、自分のためだけではなく、”誰かのために”運動するという視点が取り入れられていることだといいます。

「運動の継続を妨げる大きな壁は、『飽きる』ことです。でも、自分が普段より少し多めに歩くことで、ゲーム上でお気に入りの球団がライバルに勝ったりするところを想像するとワクワクできますよね。ついつい”もうちょっと頑張ろうかな”と思えてくることもあるのではないでしょうか?」

”誰かのために”運動する

実はいま、”誰かのために運動する”という仕組みを作ることで、運動やダイエットが継続しやすくなるのでは?という考え方が世界的に注目を集めています。

UNICEF(国際連合児童基金)が進める、子ども向けの運動推奨プロジェクトKID POWER。いま先進国では子どもの運動不足と肥満が問題化している一方、発展途上国では、子どもの栄養不足が課題になっています。

http://unicefkidpower.org/ より
http://unicefkidpower.org/ より

そこでUNICEFは、まずアメリカなど先進国の子どもに運動量を記録できるウェアラブルデバイス(図)を配布し、それをつけて運動するよう勧めました。

そして、運動量をポイント化し、一定以上たまると発展途上国の子どもに栄養食品が支給される仕組みを作りました。先進国の子どもは肥満が、発展途上国の子どもは栄養不足が改善できるというわけです。

自分が運動することが、途上国にいる同い年の子どもたちの助けになる・・・。そう考えると、少し誇らしい気持ちになれますよね。UNICEFのホームページによれば、現在(★)11万人以上の子どもがこのプロジェクトに参加し、42万個以上の栄養食品が発展途上国の子どもたちに配られたということです。

この考え方は、様々な立場の人に応用可能です。例えば、もし「お父さんの毎日の歩数がカウントされ、ある一定量を超えるとお母さんに花束が贈られる」というようなサービスがあったとしたら、お父さんの健康だけじゃなく、夫婦仲までアップするかもしれませんよね!

これまで運動は「自分の健康のために行うもの」というイメージがありました。それはもちろん正しいのですが、「自分の健康のためだけじゃ、長続きしない」というケースがあるのも確かです。

”誰かのために、運動する”というコンセプトは、これからの運動やダイエット支援サービスを考えていく中で、ひとつのポイントになるものなのかもしれません。

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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