ビールで血糖値は上がらない?ウワサの真相を調べてみた

(写真:アフロ)

忘年会シーズン、ビールを飲む機会が増えると気になるのが「血糖値」。「ビールは血糖値を上げる炭水化物(糖質)を多く含む」と言われていますので、血糖値のことを考えると控えたほうが良い気がします。

ところが最近、驚きのウワサを聞きました。なんとビールには人間が利用できる炭水化物がほとんど含まれておらず、飲んでも血糖値が上がらないというのです。

ビールを飲むと血糖値が上がるからこそ、炭水化物(糖質)を減らしたビールが人気だったり、代わりにハイボールを頼む人が増えたりしているのに、一体どういうこと??

その真相を調べてみると…。確かに、ウワサを裏付けるデータがあることがわかりました。でも良く良く調べてみると、「ビールで血糖値は上がらない」とまでは断言できないという、なんとも中途半端な結論になってしまいました…。

ただ今回調べた最新の知見は、個人的にとても興味深いものでしたので、共有できればと思いました。よかったらお時間ある時に、お読みくださいませ。

ビールには、人間が利用できる炭水化物は含まれていない?

調べたのは、文部科学省が出している「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」です。書籍として販売されていますが、文科省のホームページ「食品成分データベース」でもデータが公開されています。

食品成分データベース・スクリーンショットより http://fooddb.mext.go.jp/
食品成分データベース・スクリーンショットより http://fooddb.mext.go.jp/

さっそく検索欄に「ビール」と入れて調べてみます。すると、例えば一般的なビールである「ビール(淡色)」の場合、およそ100mlあたり3.1gの炭水化物が含まれることが分かりました。ちなみにウイスキーなどの蒸留酒では、炭水化物量は「ゼロ」です。やっぱりビール、炭水化物多いじゃん…。

と、結果画面を良く見ると「炭水化物(利用可能炭水化物、糖アルコール)」と書かれたボタンがあることがわかりました。利用可能炭水化物とは何だろう?と思いつつそこをクリックすると、別の画面が表示されました。

こちらでは、ビール(淡色)に含まれる炭水化物量は「Tr」となっています。Trとは「微量」を意味するのだそうで、要は「検出はされたけど、ごくごく少ない」ということのようです。さっきは3.1gとなっていたのに、なぜ結果が違うのか?だいたい「利用可能」ってどんな意味?わからないことばかりですので、もう少し調べてみました。

血糖値と炭水化物の関係とは

そもそも「炭水化物」って言葉は良く聞きますが、どんなものを指すのでしょうか?

炭水化物として有名なものに、「でんぷん」があります。お米やパンには、でんぷんが多く含まれていると聞きますよね。

画像

でんぷんは、ブドウ糖(単糖)がたくさんつながって出来ています。私たちがお米を食べると、含まれるでんぷんが消化酵素によって分解され、ブドウ糖になって体内に吸収され、エネルギーとして利用されます。

この、体内を流れるブドウ糖の量が「血糖値」です。なるほど、だからお米やパンを食べると、血糖値が上がるわけか…。

要は「炭水化物」とは、でんぷんと同じように、単糖がたくさんつながっているものの総称です。

ただ、炭水化物の中には、人間が持つ消化酵素では分解できず、エネルギー源として利用しにくいものもあるのだそうです。

そこで人間が利用できる炭水化物と、そうではないものを分けようということで、利用できるものは「糖質」、利用しにくいものは「食物繊維」と呼ばれています。

ここまでをまとめると、

「炭水化物」=「糖質」+「食物繊維」

ということです。

糖質とは、「人間が利用可能な炭水化物」と言い換えてもいいかもしれません。

ビールの利用可能炭水化物は「ほぼゼロ」のわけ

人間が利用可能な炭水化物、という言葉の意味がなんとなく分かったところで、さきほどの「ビール」のナゾに戻りましょう。

ビール(淡色)の炭水化物量は、100gあたり3gくらい。でも利用可能な炭水化物量は、ほぼゼロ。

これはどういうことを表しているのか?

文科省が出している「日本食品標準成分表に関するQ&A」に、説明がありました。

国際的にも、炭水化物を従来の差引き法(全体から水分、たんぱく質、脂質、灰分等を差し引いた残りを炭水化物と見なして算出する方法)ではなく、実際に含まれる各成分を積み上げて求めることが推奨されています。このため、主要な食品について分析や推計を行い、利用可能炭水化物(でん粉、糖類)、糖アルコール、有機酸の成分値を「炭水化物成分表編」としてまとめました。

出典:文科省 日本食品標準成分表に関するQ&Aより

実は、食品中の炭水化物の量を正確に求めるのは、けっこう大変なことなのだそうです。そこで従来は、まず、たんぱく質や脂質など別の成分の量を調べ、それを全体の重さから引くことで「残りは炭水化物でしょう」と決めていました。(差引き法)

でもこれだと、通常の分析では調べないような成分も全て「炭水化物」とされてしまいます。国の食品標準成分表は、私たちがスーパーで手にする食品の栄養成分表示のもとになっていたり、医療機関での食事指導に利用されたりしているものですから、もう少し厳密なほうが嬉しいですよね。

そこで国際的に「差し引き法ではなく、ちゃんと利用できる炭水化物の量を分析し、それを表示すべきだよね」という指摘がされるようになり、日本でも昨年の改訂にあわせて「利用可能炭水化物量」が表示されるようになったんですって。

と、いろいろ複雑で頭がこんがらがりそうですが、ビールに関してまとめれば、「でんぷんみたいな、人間が利用できる炭水化物の量をきちんと調べてみたら、ほとんど入っていなかった」ということのようです。

え、だとするとビールを飲んでも血糖値は上がらないってことなのでしょうか??

ビールで血糖値は上がらないのか

そこでこの件につき、糖質と血糖値の関係に詳しい専門家に聞くことにしました。取材に答えてくださったのは、日本糖尿病学会研修指導医の山田悟さん(北里研究所病院糖尿病センター長)です。

山田悟医師(北里研究所病院糖尿病センター長) 北里研究所病院HPより
山田悟医師(北里研究所病院糖尿病センター長) 北里研究所病院HPより

Q)食品標準成分表の改訂により、例えばビールの利用可能炭水化物量がほぼゼロとされました。つまり、ビールは血糖値をあげない(もしくは、ほとんど上げない)ということだと理解して良いのですか?

はい。その通りだと考えられます。私もこの改訂をうけて、自分でビールと低糖質食(糖質をあまり含まない食事)をとった前後で血糖値を調べてみたら、ほとんど変化がなかったので驚きました。

Q)しかし食品標準成分表を見ると、ビールでも種類によっては利用可能炭水化物が含まれる、となっていますね

そうですね。銘柄によっては利用可能炭水化物を含むものもあるようです。例えば07年に発表されたオーストラリアの研究(※1)では、ある銘柄のビールを飲んだところ、同カロリーの白パンの半分程度ですが、血糖値が上がったことが示されています。銘柄によっては利用可能炭水化物を含むことが考えられるので、盲目的に「ビールでは血糖値が上がらない」とは言い難いと思っています。

Q)では新しい知見をうけて、私たちはビールとの付き合い方を、どのように考えればよいのでしょうか?

ビールが大好きだったのに、血糖値を心配して無理にハイボールなどに変えていた、という人にとっては、より好みに合った選択をするための根拠が加わったということはいえると思います。

ただし当たり前のことですが、過度の飲酒は肥満や肝臓への負担など様々な悪影響を生みます。

元来より、適正飲酒というものが推奨されてきました。厚労省は適度な飲酒を「1日平均純アルコールで約20g程度」としています。20g程度のアルコールの目安とは

  • ビール500ml
  • 日本酒1合
  • ウィスキー60ml
  • 焼酎(35%) 90ml弱
  • ワイン 180ml です。

血糖値を上げるかどうかにかかわらず、飲酒する場合にはこの量の範囲内で楽しむということが、より健康に役立つ考え方といえるかもしれません

というわけで色々調べてみたのですが、「要はビールは血糖値を上げるの?上げないの?」という疑問について、現段階で明確な回答ができるほどの根拠を手に入れることはできませんでした。長々と読んだのに!と残念なお気持ちになった方には、心からお詫びします。

今回の取材から感じたことは、食品に関する「常識」は変わり続けているということです。例えばコレステロールを多く含む食品は、あまり食べすぎると健康に悪い影響があるとされ、厚生労働省の食事摂取基準でも「これ以上食べすぎると良くない」という上限が設定されていました。

でも近年の研究で、食事でコレステロールを多くとっても、体内で調整する仕組みがあることが明らかになってきたこともあり、最新の食事摂取基準では、上限が撤廃されました。

ビールと血糖値の関係についても、今後、新しい研究やデータが積み重なっていくでしょう。これからも取材を続け、確信を持ってお伝えできることが出てきたら、改めてご紹介したいと思っています。

(※1)Effect of alcoholic beverages on postprandial glycemia and insulinemia in lean, young, healthy adults

Am J Clin Nutr June 2007 vol. 85 no. 6 1545-1551