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”弱”電三社が向かう、それぞれの道

本田雅一フリーランスジャーナリスト

1月7日より米ネバダ州ラスベガスで、International Consumer Electronics Show(CES)が始まる。初日には家電各社が、その年の事業・製品戦略を発表。その一年間を占う重要なイベントと位置付けられている。とりわけ90年代終わりから始まった、映像、音楽、写真などのデジタル化にともなうデジタル家電への移行、機能、品質面での進化は、パソコンに圧され縮小を続けていたCESを一気に巨大トレードショウへと発展させた。

しかし昨年、2012年には大手家電メーカーが軒並み巨額赤字を計上したのはご存知の通りだ。「日本家電沈没」と、”日本”を強調する論調で家電メーカーの沈没を伝える記事が多いものの、実際にはライバルと言われる韓国家電メーカーもデジタル家電分野では厳しい事業環境にさらされている。

では、デジタル家電を中心に事業を組み立ててきた家電企業は、今後どこに向かっていくのか。CES 2013の注目点は、主要家電メーカーの”これから”に対する姿勢にある。このCESを境に各社は、それぞれ異なる方向へと歩を進めることになるだろう。

それぞれの道を歩み始める大手家電メーカー

家電のデジタル化が進められた過去10数年は、ホームエンターテインメントのデジタル化というイノベーションにより起きた大きなうねりだった。デジタルホームエンターテインメントのうねりが大きくなるにつれ、各メーカーは一様に投資を集め、各社はまるで同じ企業であるかのように、同じ分野の製品で凌ぎを削ってきた。

しかし、クラウド型サービスの発展やユーザーインターフェイス、機器性能の向上などで、スマートデバイス革命とも言える新たなイノベーションが起き、デジタルホームエンターテインメント市場は急速に落ち込み始めている。円高やライバルの台頭といった側面も、事業を圧迫してきた要因ではあるが、むしろ産業構造の変化と捉えるべきだろう。

家電製品を本業とする日本企業と言えば、ソニー、パナソニック、シャープの三社。消費者の視点では、このところのテレビを中心とした事業展開で、よく似た主力製品を持つ企業に見えていたかもしれない。

しかし、本来はそれぞれに異なるタイプの事業者だ。それぞれのメーカーは、それぞれ本来の姿に回帰するのが、今年のCESとなるだろう。

たとえばシャープはもともと、規模を追わずに独自の要素技術を育て、商品価値を高める手法で発展した会社だ。シャープの経営危機には様々な要因があり、解決することは容易ではない。財務の傷みが激しいが、原点である規模を追わず、独自技術を活かす方向に向かうしか道はないだろう。今回のCESでシャープが何を言うのか(あるいは何も言わないのか)が注目される。

一方、ソニーはホームエンターテインメントを軸に、本業である家電事業を成長させてきた。さらにホームエンターテインメント製品を中心に、コンテンツ事業、コンテンツ制作関連のサービス、製品にまで強みを持ち、映像や音楽、写真を生み出すところから、エンドユーザーがコンテンツを楽しむところまで、首尾一貫とした価値の提供が強みだった。

医療機器分野への進出など、これまでの技術開発を活かせる他分野への投資を加速しているものの、当面はホームエンターテインメント事業の立て直しを図らねばならない。家電メーカーとしてのソニーは、デジタルホームエンターテインメントからは逃げられない宿命を背負っている。

事前の情報によると、今年は4K2Kと呼ばれる、従来のフルHDに比べて縦横それぞれ2倍の画素数を持つテレビと映像制作のシステムに力を入れ、(テレビ放送がないことをカバーするため)ネット配信も含めたコンテンツ供給までのビジョンを示すとも言われている。

とはいえ、そうした”次世代テレビシステム”は、その事業性に疑問が投げかけられているだけでなく、現実的な価格で提供され事業として成長軌道に乗るまでには、まだまだ時間がかかる。さらにソニーはPlayStation Vitaの売上げ不振、ゲームコンテンツ販売不振にあえぐソニー・コンピューター・エンタテインメント(SCE)の立て直しにも取り組まねばならない。

PlayStation Portable、PlayStation 3という二枚看板が、プラットフォームとして旧くなってきた現在、Vitaの今後をどうするのかは、容易には語れない大きな問題だ。SCEはスマートフォン向けのPlayStation Mobileも、その次期を大きく逸してしまっている。このままでは、今後の事業基盤を作るべきプラットフォームに大きな谷間ができてしまう可能性がある。

自力はあるだけ巻き返しは不可能ではないだろうが、SCE出身のソニー・グループCEO平井一夫氏がゲーム事業に関して、どのようなスピーチを行うかも、このCESにおける注目点のひとつだ。

イメージ一新、事業構造一新に取り組むパナソニック

もっとも、いちばん注目したいのは二期連続で巨額赤字を計上したパナソニックだ。巨額赤字の大半は、過去の投資戦略の失敗を整理するためのもの。パナソニックは津賀一宏社長が、CES初日の基調講演を担当する。そこではパナソニックというメーカーの原点回帰をイメージさせる講演になる。

プラズマパネル、大型テレビに注力してきた昨今のパナソニックだが、本来はライフスタイル全般を支える企業だ。家庭内電気設備、照明、調理、美容、家事家電からAVまで、これほど幅広い電気製品を扱う企業はパナソニック以外にない。

デジタルホームエンターテインメントという切り口ではなく、ライフスタイルに寄り添う企業として自らの立ち位置を見直した戦略を、津賀社長は打ち出していくようだ。昨年末、津賀社長は「放送を表示するだけのテレビ、音楽コンテンツを再生するだけのオーディオ機器では、もはや利益は取れない。しかしライバルにはないパナソニックならではの立ち位置から見直し、クラウド型サービスで心地良くライフスタイル全体をサポートするのであれば、顧客に対してパナソニックならではの価値を提供できる」と話していた。

ただし、その一方で「テレビは今も必要な事業。テレビという商材だけでは利益を挙げにくくなっているが、パナソニック全体では利益を出せる仕組みを作っていきたい」と話しており、テレビ事業を辞める考えがないことも強調している。

このようなライフスタイル全般に寄り添う電機メーカーというパナソニックのイメージは、日本では当たり前のものとして認識されているだろう。しかし、世界的に見るとパナソニックは、この10数年に渡るデジタルホームエンターテインメント企業としてのイメージが強い。ライバルが多く採算性の低い分野から、独自性を活かせる分野へと軸足を移すことで業績回復への方向を示すことで、津賀体制におけるパナソニックの今後を示す。

注目の基調講演は米国時間の1月8日朝9時ごろから始まる予定だ。

フリーランスジャーナリスト

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、モバイル、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジとインターネットで結ばれたデジタルライフと、関連する技術、企業、市場動向について解説および品質評価を行っている。夜間飛行・東洋経済オンラインでメルマガ「ネット・IT直球レポート」を発行。近著に「蒲田 初音鮨物語」

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