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Galaxy S4発表のサムスン。ハレの舞台に突きつけられた知財裁判のノー

本田雅一フリーランスジャーナリスト

ローエンドモデルからハイエンドモデルまで幅広くAndroidスマートフォンのラインナップを作り、成熟した先進国市場から所得レベルがまだ低い新興国、アジア市場までを幅広くカバーし、いまや押しも押されぬトップモバイル端末メーカーとなったサムスン。

彼らはヒット製品となったGalaxyシリーズの最新モデル「Galaxy S4」をニューヨークの著名なコンサートホール「Radio City」で発表する「Unpacked」とうイベントを開催した。しかし、その幸せはそう長くは続かなかった。

相変わらずの高スペックに独自機能を盛り込んだが、デザイン面は相変わらず
相変わらずの高スペックに独自機能を盛り込んだが、デザイン面は相変わらず

発表会には1500人を越える世界中からサムスンの招待で集まった報道陣を合わせ、3000人の報道陣がRadio Cityにやってきた。大々的な発表会に会場はヒートアップしたとのことだ。

筆者はあいにくWebCastでの参加となったが、ライフスタイルの様々なシーンにおいて、どんな提案、解決策が用意されているかを、Galaxy S4上のソフトウェアやサービスの連動で見せる、アップルがiPhoneを紹介する時のような発表スタイルが印象的だった。

米欧(特に欧州)では、Galaxyは採用する基本ソフトの”Android”を越えて、単独のビジネスブランドとして定着しはじめている。今回はアクセサリや連動する各種ペリフェラルも含めて自社で用意し、Galaxyの独自性を強調していた。まるでGalaxyはGalaxy、Androidではない、と言わんばかりだ。

もっとも、Android端末といった時点で、他製品と同条件で戦うことになる。今、乗りに乗っているタイミングで、Android端末の中の最大手ブランドから、スマートフォン最大シェアのブランドとして、"Galaxy"の名前を前面に押し出す手法はさすがと言うほかあるまい。

もっとも、彼らの製品が本当に差異化されていると、コンシューマが判断するかどうかは未知数だ。人気を博しているソニーのXperia Zや新モデルが発表されたHTC oneなど、他社の主力Android端末と比べて圧倒的かと言えば、そこは好みの入り込む余地はある。

そのため、同じAndroidを基本ソフトとして採用するライバルとの差異化のため、Galaxy Sシリーズは(初代を除けば)その年のトレンドとなる最新スペックをいち早く盛り込んできた。今回もプレゼンテーションでは用途提案を前面に押し出したものの、他社がまだ採用してないスペックの部品を含め、現時点で実現できる最大限のスペックを持つAndroid端末を用意したという点を見る限り、これまでの成功のパターンを踏襲してきている。

クアッドコア、あるいはオクタコア(8コア:高速なメインCPUコア×4+省電力コア4)のアプリケーションプロセッサは、対応するキャリアごとに異なる。フルHDの5インチAMOLEDパネルをディスプレイや2600mA/hと大容量のバッテリを内蔵しながら130グラムの重量など、今年の年末にかけたハードウェアトレンドを踏襲している。

日本での発売キャリアは未発表だが、昨年と同様に、今年いっぱいをかけて様々な派生モデルを生みながら順次投入されていくだろう。

ただし、これまでのようなスペックでの圧倒は、やや難しくなってきた。超高精細のOLEDや強力なプロセッサなどはもちろん魅力だが、単純なスペックだけならば他にも選択肢がある。翻訳機能や専用周辺機器と連動する健康モニタ機能など、新しいトレンドを導入しているが、これが決定的な他Androidとの差異化になるかと言えば、そこには疑問の余地がある。多くはサードパーティのアプリケーションや周辺機器で間に合ってしまうからだ。

今年、Galaxy S4がヒットモデルとして、アップルのiPhoneを追い抜く製品に成長する可能性はありそうだ(サムスンはスマートフォン世界シェア1位でアップルを越えているが、販売端末の平均単価はアップルの方がはるかに上。すなわち、Galaxy Sシリーズだけで言えば、その時々のiPhone最新モデルを越えていない。

しかし、サムスンには二つの死角がある。

サムスンはGalaxy NOTEで、スマートフォンに近いフォームファクタにペン入力の要素を追加。新しいデバイストレンドを生み出した。しかし、NOTEのペン入力機能を除く、テレビ、白物家電などコンシューマ製品でイノベーションを感じる分野は少ない。まして、エレクトロニクス業界全体の未来を指し示すこともない。

これはスマートフォンだけの話ではない。総合家電展示会でも、いまや世界一位の家電企業になったにもかかわらず、その年の技術トレンド、商品トレンドを指し示すような積極性が見られないのは、ここ数年ずっと同じなのだ。

アップルがここ数年、ハードウェア面でイノベーションを感じさせる提案をしていないだけに、ここでサムスンが独自性を発揮させれば、スマートフォン分野における盤石の基盤を作るところだったろう。しかし、Galaxy S4は従来路線の延長線上にあるように見える。今後、この凪の海に波風を立てられるかどうか、トップメーカーとなったサムスンには従来以上の期待がのし掛かるだろう。期待に応えられなかった場合の裏返しの反応も想定せねばならない。

もうひとつはアップルとの特許訴訟が、サムスンにとって決して良い方向には行っていないことである。つい先日の2月28日、サムスンがアップルの製品出荷差し止めを求めて日本の東京地裁で起こしていた特許訴訟について「通信関連の特許権を乱用している」との判断が出てサムスン側の敗訴となっていたが、Galaxy S4が発表された翌日(時間としてはほど近い)日本時間の3月15日に、AppStoreの画面デザインとユーザーインターフェイスに関する特許侵害に関しても、サムスンの訴えは認められなかった。

この裁判はサムスンが日立国際電気から譲り受けた特許をアップルが侵害していると訴えていたものだったが、昨年秋にいったん棄却となっていた。それをさらに知的財産高等裁判所に抗告したもの。判決文を入手して読んでみたのだが、すべての請求項目に関してサムスンの主張は退けられていた。

アップルとサムスンの特許訴訟に関しては、国ごとに判断にムラがあるといったことが言われるが、旗色はサムスンの方が悪い。この訴訟動向が本業に直接の影響を及ぼすことはないように思えるが、長期的にはブランド力への影響は避けられないかもしれない。

フリーランスジャーナリスト

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、モバイル、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジとインターネットで結ばれたデジタルライフと、関連する技術、企業、市場動向について解説および品質評価を行っている。夜間飛行・東洋経済オンラインでメルマガ「ネット・IT直球レポート」を発行。近著に「蒲田 初音鮨物語」

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