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GalaxyのPRタレントが中国版ツイッターでアップルを不当に非難して大炎上

本田雅一フリーランスジャーナリスト

2007年に初代iPhoneが発売され、翌年7月にiPhone 3Gを発表。さらにその高速版である3GSが発売される頃には、スマートフォンというジャンルが確実に根付いた。今やスマートフォンがエレクトロニクス産業にとって、もっとも重要なジャンルと言えるが、それだけに競争は激しい。それが、この大きくなり続けている市場を圧倒的に制圧しているシェア1位のサムスンと2位のアップルの間のことともなればなおさらだ。

つい先日、シェア1位のサムスンが今年1年、ラインナップの頂きに据えるGalaxy S4をニューヨークで発表したころ、世界中で拡大しているアップルとサムスンの特許訴訟合戦において、サムスンが東京の知財裁判所で全面的な敗訴を言い渡された。

こちらの件は「Galaxy S4発表のサムスン。ハレの舞台に突きつけられた知財裁判のノー」でご覧頂きたいが、このGalaxy S4のプレミアナイトに、中国では驚くべきトラブルが発生していた。

中国最大のテレビ局がアップルを指弾。排斥運動に発展しかけたが…

中国最大のテレビ局であるCCTVが消費者保護を主題とするテレビ番組で、中国でも憧れの的になっている製品を生み出しているアップルに照準を当てた放送を行った。この番組は、(中国の)国産製品が品質問題を繰り返し発覚している中国では、かなりの人気特番のひとつだという。

実は3月15日は「世界消費者権利デー」に指定されているそうで、中国では年に1度、この日に企業の悪事(あるいはちょっとしたミス)を取り上げ、徹底的に糾弾する番組が多数組まれているのだそうだ。その中でも最大手CCTVの番組は一番の人気で、しかも糾弾の相手がアップル。盛り上がりに盛り上がって、オンタイムで数1000万人が視聴したという。

この中で番組は、アップルが初期不良や修理で回収されたiPhoneを、通常より短い保証期間しかない整備済み品のiPhoneと交換していると伝えた。通常こうした場合、アップルはiPhoneを新品交換する。しかし、中国ではバックカバーを本来の所有していたものに付け替え、交換ではなく修理として処理をしてきた。中国では新品交換を行うと保証期間がリセットされる法律があるため、アップルはその対抗策として、バックカバーを従前のものに付け替えることで、完全な新品交換を避けていたのだ。

この対応をもって、アップルは中国人ユーザーを企業レベルで差別しているという報道をCCTVは行い、その後は想像する通り、ネット上で爆発的な話題として盛り上がり、ついにはアップルへの攻撃的な発言が止まらなくなった。保証期間については、他国での対応となんら変わらないのだが、そんなことを聞く耳はもはやない。

中国語版ツイッターの微博では激怒の書き込みが席巻し、ブログでもアップル排斥を求める声が上がった。もちろん、中国はとても広く多くの国民がいるため、至る所でアップル排斥という論調になっていたわけではない。しかし、中国・北京で10年以上、企業向け出版事業を営む知人によると、少なくともネット界隈でこの問題について知らぬ者はいないほどの熱狂ぶり。言い換えればアップルにとって深刻な事態だったという。

しかし、事態は急展開を見せる。TeaLeaf Nationという中国の動向を米国に伝えるブログで、CCTVが著名人に微博でアップルを糾弾するツイートをするよう依頼したことが発覚したと報じられたのである。発覚したのは単純ミスからだった。

著名人へのアップル批判の依頼が発覚

台湾出身の人気歌手・俳優で、微博で多くのフォロワーを持つ何閏東(Peter Ho)氏が、微博で次のようにつぶやいてしまったのだ。

  1. 315在行動# アップルは同社のアフターサービスで実に沢山のトリックを使っている。アップルファンとして僕は傷ついた。スティーブ・ジョブズがこれを容認できると思うかい? あるいは(iPadを買うために)自分の腎臓を売った若い人たちも。大きな連鎖でお客をぞんざいに扱っているのは本当に事実なんだ。8時20分頃につぶやいてください。

「#315在行動#」と最後の「8時20分頃につぶやいてください。」は指示文の一部と考えられる。CCTVが否かを特定するワードはないが、番組進行をあらかじめ知っていなければ、時間は指定できない。したがって、CCTVは番組を盛り上げるため、放送中、何閏東氏にアップルを非難する書き込みをさせていたと判断された。しかも、同じ時間帯、番組の進行に合わせて様々な有名人が、アップルを非難する声明を出していた。

これだけ状況証拠が集まってしまえば、微博で炎上が起きないはずもない。何閏東氏をはじめ、CCTVから依頼されていたと思われる有名人は該当の書き込みを削除。さらに何閏東氏は「携帯電話を盗まれ、誰か知らない人間が投稿した」と主張したが、誰も信じるものはいない。

CCTVから依頼されたであろう他の有名人がリスト化され(しかも、彼らのほぼ全員がiPhoneあるいはiPadで投稿していた)、今も中国中を駆け巡っているという。

火の粉がGalaxy S4発表のサムスンにまで届く

この一連の騒動は、アップルのライバルであるサムスンにも火の粉が飛んだ。なぜなら何閏東氏は、サムスンGalaxyのプロモーションパートナーだったからである。テレビ局が有名人を用い、大々的に番組を盛り上げるためにアップルのネガティブキャンペーンを張った中で、たまたまサムスンが広告に利用しているタレントに当たってしまった可能性はある。おそらく、何閏東氏も、さして気に留めずに頼まれたつぶやきを書き込んだだけなのだろう。なにしろ、彼が微博に投稿した際に使った端末はiPhoneだったからだ。

しかし、ネットの噂は勢いを増すばかりだ。CCTVが具体的な文面まで指示し、お金を撒いてまで(という証拠が挙がっているわけではない)ネガティブキャンペーンをやるとしたら、どの企業がそれを支援したのだろう。「お金があって、iPhoneのイメージダウンを狙い、しかも該当タレントが言われた通りに投稿してくれる。そんな利害関係を企業はどこだ?」という連想ゲームが始まってしまった。

今回の騒動。筆者はCCTVの過剰な演出と何閏東氏の間抜けさが生んだ悲劇と見ているが、さてみなさんはこの一連の動きにある空白をどう埋めるだろうか?

フリーランスジャーナリスト

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、モバイル、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジとインターネットで結ばれたデジタルライフと、関連する技術、企業、市場動向について解説および品質評価を行っている。夜間飛行・東洋経済オンラインでメルマガ「ネット・IT直球レポート」を発行。近著に「蒲田 初音鮨物語」

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