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【15人に1人】石垣市の実態アンケートで見えた離島の「ひきこもり」の深刻度

池上正樹心と街を追うジャーナリスト

離島の実態を知るうえで、興味深い調査を行ったのは、沖縄県石垣市青少年センター。

「内閣府が2010年に行った(ひきこもり実態調査によると全国約70万人という)推計を石垣市の人口比率に合わせてしまうと、人数が大きくなるのではないかと思い、独自に調べてみました。石垣市は、沖縄本島や日本本土のようなつながった地域と違い、義務教育後のサポートする機関がない。どのくらいの人数が潜在的にいて、どのような支援をすればいいのかを確認したかったのです」(同センター担当者)

調査は、今年2月、石垣市に居住する0歳から39歳までの市民が属する世帯のうち、2000世帯を無作為抽出。アンケート用紙を郵送で配布し、封をして返送してもらう方法で行った。2010年の内閣府に近い調査手法だ。

結果は、回答者533件のうち、「自室からほとんど出ない」が1人(0・18%)、「自室から出るが自宅から出ない」が5人(0・92%)、「趣味や買い物等の用事に時々出かける」が18人(3・36%)で、合わせると4・46%だった。内閣府の調査による「ひきこもり」層の割合の1・79%(推計で約70万人)に比べると、実に2・5倍近くにも上る。ごく単純に比率を全国推計に当てはめると、170万人以上という計算だ。

自治体の調査で、離島の「ひきこもり」の現状が明らかになるのは、おそらく初めてではないか。

とくに注目したいのは、「あなた(回答者)またはご家族の方に、仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をせずに、6カ月以上ひきこもっている方、又はひきこもり状態であるが、趣味や買い物等の用事に時々出かけることができる方はいますか?」という問いだ。

この「ひきこもり」という定義も、内閣府の状態像に準拠したものであり、ひきこもり状態の方が「いる」と回答したのは、34人(6・4%)に上った。自身も含め、家族にひきこもり状態の人がいる割合は、およそ「15人に1人」ということになる。

また、ひきこもり状態の人の性別を聞いたところ、「男」は41%だったのに対して、なんと「女」のほうが47%と多かった。

これは、離島という地域性が背景にあるのか、調査手法からくるものなのか等、さらなる考察が必要になるが、内閣府などの従来の公的調査に見られる男性のほうが7割前後を占める割合と違い、「ひきこもり」層の女性が数多く潜在化していることを物語るデータとしても興味深い。

ちなみに、ひきこもり状態の人の性別に、「無回答」も12%含まれていたことから、セクマイなどの人だった可能性がある。さらに言えば、性別欄に選択肢がないために、回答そのものができなかった人もいたかもしれない。「ひきこもり」というテーマを扱う上で、行政の担当者はどこまで想像できていたのだろうか。

もちろん、5年も前に行った内閣府の推計値をそのまま人口割合に当てはめて算出するのではなく、石垣市という1自治体が、独自に調査した努力は評価できる。

当事者の年齢については「40歳以上」も数多く存在していた
当事者の年齢については「40歳以上」も数多く存在していた

しかし、「その方の現在の年齢をお答えください」という設問に対して、最も多かった年齢層は、「35~39歳」の23・5%だった。しかも、調査対象外であるはずの「40歳以上」が、17・6%で同率2位を占めるなど、水面下で高年齢化している石垣市の「深刻な現実」も垣間見えた。

「ひきこもり」という状態が続くのは30歳代までの話で、40歳になると「ひきこもり」が終わるわけではない。現実に、40歳を超えて「行き場がない」「出口が見えないまま放置されている」と訴える当事者たちを筆者は数多く知っている。

どうして調査対象を39歳までに区切って、40歳以上を除外したのか。同センターの担当者に尋ねると、こう答えた。

「基本的には内閣府に準拠したのです。そうはいっても、40歳を超える方も数多くいらっしゃいますので、その都度、ケースバイケースで対応しているのが現実です」

ただ、せっかく公金を使って調査するのなら、全体像を把握するために、対象を40歳以上に広げてもよかったのではないか。そう重ねて聞くと、

「異動で4月に来たばかりで、調査を実施した当時の担当者に聞かないと…。でも、今後は把握していく可能性があります」

などと説明した。

ひきこもり状態の人が「現在の状態になったきっかけ」については、「人間関係がうまくいかなかった」が半数の50%を占めた。また、「職場になじめなかった」が23・5%に上るなど、社会に出てから離脱する「新たなひきこもり層」も数多く存在していた。

さらに、「どのような相談機関なら相談したいと思いますか」については、「親身に聴いてくれる」が半数近い46・4%と最も多く、続いて「心理学の専門家がいる」42・9%、「同じ悩みを持つ人と出会える」35・7%の順に高かった。5年前、内閣府でも同様の調査を行っているが、「親身に聴いてくれる」は14%余り、「同じ悩みを持つ人と出会える」と答えた人は2倍以上も、当時の内閣府調査より増えている。

人との関係性の中で傷つき、ひきこもったのであれば、再び社会につながるためには、当事者の中に起こっていることを真ん中に、多様な情報や価値観を持つ人たちと視点を共有し合うことで生まれる関係性を再構築できる場が必要だ。

その際、大事なのは、ひきこもらざるを得なかった人たちの思いを受け止め、安心して言葉を発することができる場であり、そのためのフラットな関係だ。そして、そんな関係性の足がかりになり得るのが、「同じ悩みをもつ」ピア的な人たちの存在であることを、この調査結果は示しているように思う。

同センターによると、石垣市内には、ひきこもり家族会や当事者団体などがないという。そんな遮断された当事者や家族がつながるためのネットワークづくりも課題だが、今後、当事者たちの意向を吸収して反映させていくための仕組みづくりを自治体として、どこまで構築できるのかについても注目したい。

心と街を追うジャーナリスト

通信社などの勤務を経てジャーナリスト。KHJ全国ひきこもり家族会連合会副理事長、兄弟姉妹メタバース支部長。28年前から「ひきこもり」関係を取材。「ひきこもりフューチャーセッション庵-IORI-」設立メンバー。岐阜市ひきこもり支援連携会議座長、江戸川区ひきこもりサポート協議会副座長、港区ひきこもり支援調整会議委員、厚労省ひきこもり広報事業企画検討委員会委員等。著書『ルポ「8050問題」』『ルポひきこもり未満』『ふたたび、ここから~東日本大震災・石巻の人たちの50日間』等多数。『ひきこもり先生』『こもりびと』などのNHKドラマの監修も務める。テレビやラジオにも多数出演。全国各地の行政機関などで講演

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