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台風が遠くても危険な「一発大波」

増田雅昭気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ所属
伊勢湾口沖の23日の波高(青の棒グラフ)。 国土交通省港湾局ナウファスHPより。

23日午後0時40分頃、愛知県田原市伊良湖町の伊良湖岬で、(中略)幼稚園児(6)が行方不明になったと110番があった。名古屋海上保安部などで現場付近を捜索している。同保安部の発表によると、(中略)波打ち際で遊んでいたところを波にさらわれたとみられる。(略)

出典:読売新聞

園児が無事に見つかることを願わずにいられません。

伊良湖岬から比較的近い伊勢湾口沖の観測値を見ると、23日は、朝の波高が2メートル前後でそれほど高くなく、また天気もよく晴れていたので、「穏やか」という印象があったかもしれません。

ところが、時間とともに波が高まり、事故が起こった頃には3メートル近くに達していました。

この波高というのは、正確には「有義波高」というものです。高い方から3分の1の波を抽出して平均したもので、見た目の実感に近い値とされています。

しかし、当然、波には大小がありますので、100波に1波は有義波高の1.6倍、1000波に1波(約2時間に1波)程度は有義波高の2倍の波が現れます。「一発大波」とも言われる波です。事故当時も、3メートル程度ではなく、5~6メートルほどの大波が発生した可能性もあります。

23日正午の衛星画像。
23日正午の衛星画像。

高波の原因は、台風20号です。台風は伊良湖岬から1000キロ以上も離れた南海上にありましたが、十分に注意圏内です。台風が北緯20度より北まで北上してくると、太平洋岸に台風の高波が入り始めます。

また、台風からのうねりは力強く、岸に近づくと急に高くなることがあり、いっそうの注意を要します。

「一発大波」「台風が離れていても」「晴れていても」などは、今に言われ始めたことではありません。海の知識と情報収集が、被災のリスクを下げます。子供にも伝わり、一件でも事故が減ることを願います。

台風20号は、本州から離れた海上を進みますが、太平洋岸には高波が押し寄せ続けます。今週後半にかけて油断できません。

気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ所属

TBSテレビ・ラジオ気象キャスター。大学在学中に気象予報士を取得し、民放キー局の報道番組に学生予報士として出演。気象キャスターに携わりながら、企業への予報やアドバイザーも長年担当し、甲子園での高校野球の大会本部気象担当を務めたこともある。災害から身を守る気象情報の使い方など講演も行うほか、Twitterで気象情報を毎日発信。著書に『TEN-DOKU クイズで読み解く天気図(ベレ出版)』がある。1977年滋賀県甲賀市生まれ。

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