Yahoo!ニュース

米ナスダック総合指数15年ぶり高値―今の相場は「買われ過ぎ」

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
米ナスダック店頭市場=NASDAQサイトより
米ナスダック店頭市場=NASDAQサイトより

米ナスダック店頭市場の代表的な株価指標でハイテク株のウエートが高いナスダック総合株価指数が3月2日の取引でじわじわと上昇し、ついに終値で5008.1を付け、全米がドット・コムブームのITバブルに涌いた2000年3月10日の5048.62以来、実に15年ぶりに5000ポイントの大台を回復した。これは2009年3月に底入れして以来295%の回復で、これほどではないがS&P500種も213%、ダウ工業株30種平均は179%回復した。しかし、15年前と同じ米国株式のバブル再現とは見られないようだ。

米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナル(『WSJ』)のダン・シュトルンプフ記者は2日付電子版で、「終値ですんなりと5000台を記録したことはすごい。2000年3月に終値で5000台を付けたときは、数日間にわたって5000の水準を行ったり来たり、めまぐるしい相場展開だった。一日ですんなりと新しいミレニアム(千年に一度の大イベント)・マーカーを記録した」と指摘する。

しかし、米資産運用大手ワッデル・アンド・リード・ファイナンシャル(運用資産額1250億ドル=約15兆円)のハンク・ハーマンCEO(最高経営責任者)は2日付電子版の『WSJ』で、「地に足がついた相場の回復というべきで、ハイテク大手の株価が軒並み値を上げるというバブルではない」とし、株価急騰が目立つのはIT大手アップルやオンライン小売り大手アマゾン、ネットワーク通信機器大手シスコ・システムズぐらいで15年前のバブルとは様相が違うという。

グロース氏、各国中銀の超低金利政策の弊害を糾弾

また、世界最大の債券ファンド投資会社ピムコの創設者で最高投資責任者(CIO)だったビル・グロース氏(現在は米資産運用大手ジャナス・キャピタル・グループの著名ファンドマネージャー)も2日、米経済専門チャンネルCNBCのインタビューで、「(ナスダック指数が5000台に乗ったのは)年初来で10-15%高となっている一部のハイテク銘柄のおかげ。(その意味で)プチ・バブルといえる。ITバブルの2000年当時とは様相が違う」と指摘。その上で、「今の相場は買われすぎなので、将来のある時点で売り戻しの調整が入るかもしれない」と慎重な見方だ。

さらに、グロース氏は、2日付の顧客向け投資リポートで、「ここ数カ月間で我々が見てきたのはユーロ圏の量的金融緩和(QE)策の導入決定と日本のQE政策の(拡大)継続、そして大量のマネーが世界中の株式市場に流れ込み株価上昇に勢いをつけている状況だ。こうした各国の中央銀行による超低金利政策は、経済が健全に機能するために重要な金融(資産運用)のビジネスモデルを破壊する。端的な例が年金運用ファンドや保険会社だ。欧州中央銀行(ECB)のQEが3月から始まれば、ドイツ国債の利回りは将来、マイナスの利回りになりかねない。一方で、中銀の超低金利やマイナス金利の金融政策によって短期金利の低迷が長期化する。そうなれば、資金を長期の債券で運用しようとしても5-30年という長期にわたる年金や保険金の支払いが困難になる。ドイツやオランダ、フランスの保険会社はゼロ金利やマイナス金利下で、どうやって長期の支払いを確保できるというのか。結局、経済成長の助けにはならず、貯蓄が増え消費が抑制され、世界経済をダメにし始める」という。

また、グロース氏は同リポートで、「今は投資家もボンド(債券)ホルダーも先進国市場の超低金利を利用して目先のキャピタル・ゲイン(譲渡益)を手に入れられるので有頂天になっている。しかし、いずれしっぺ返しをくらうことを早く気付くべきだ。中央銀行は景気支援と称して間違った金融緩和の努力をし続けている」と手厳しい。この点について、米英大手信用格付け会社フィッチ・レーティングスは2月23日付リポートで、「QEは長期にわたるデフレと景気後退のリスクを低減させることによって、財政を支え、財政赤字と対GDP(国内総生産)比の政府債務比率の悪化を緩和する可能性がある」と分析する。

しかし、グロース氏は、「ユーロ圏以外でもスイスや日本、中国さえも低金利政策を採用してドルに対し自国通貨の価値を引き下げて景気回復を狙っている。マイナス金利や超低金利にすることでソブリン債や社債の負担が軽減され、輸出競争力が高まり、世界経済の成長にはプラスと思いがちだ。しかし、米国以外の国が一斉に通貨の引き下げを目指せば、日本は2012年以降、円がドルに対し50%も安くなったものの、期待された成果を上げられなかったように、ドルが強くなって米国経済をダメにするか、あるいは、他の国は通貨安になって期待通りの成果が得られないかのどちらかになる。だからこそ、米連邦準備制度理事会(FRB)は6月から徐々に金利を引き上げに向かい始めた」と主張する。(了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

増谷栄一の最近の記事