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FRBはマイナス金利導入―バーナンキ氏とサマーズ氏が支持

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
マイナス金利の導入を支持するバーナンキ前FRB議長=FRBサイトより
マイナス金利の導入を支持するバーナンキ前FRB議長=FRBサイトより

米連邦準備制度理事会(FRB)も欧州中央銀行(ECB)やスイス、スウェーデン、デンマーク、そして最近では日本の各国中銀に続いて、市中銀行が中央銀行に預け入れる準備預金の金利をマイナス金利にすることで、金融引き締め状態を緩和し、銀行の貸し出しを増加させて景気を刺激するという非伝統的な金融政策を直ちに導入すべきとの議論が米国で活発になっている。

FRBが昨年12月に9年半ぶりに利上げに転換した時点では、FRBの政策決定者は、今年は4回の利上げを予測したが、最近ではシカゴ商品取引所(CBOT)のフェデラル・ファンド(FF)金利先物は今年の利上げはわずか1回を織り込み、FRBの意気込みとは大きなかい離を示している。こうした中、英紙フィナンシャル・タイムズのジリアン・テット記者は2月11日付電子版で、「今まではマイナス金利の話はエコノミスト同士が深夜のバーの片隅で議論する程度だったが、日銀がマイナス金利政策を導入し、FRBも最近開始した大手銀行へのストレステスト(健全性審査)で、長期にわたって3カ月物財務省短期証券(Tビル)の利回りがマイナス0.5%にまで低下した場合のマイナス金利の金融市場への悪影響について考えられるシナリオを策定するよう初めて求めたことで現実味を帯びてきた」と指摘する。

前FRB議長で米シンクタンクのブルッキングス研究所特別研究員でもあるベン・バーナンキ氏も1月29日の米経済情報専門サイトのマーケットウォッチのインタビューで、「低インフレで名目政策金利(FF金利)も低い状況では、たとえ名目金利がFOMC(公開市場委員会)のメンバーが正常な水準と予想している3~3.5%になったとしても(依然として低く)、もし米国がリセッション(景気失速)になれば、FRBの利下げ余地は明らかに限られたままという懸念が残る。しかし、FRBがマイナス金利、すなわち、事実上、量的金融緩和(QE)となる非伝統的な政策をもう一度導入するという安全策がある。景気がかなり後退する状況になれば、FRBはマイナス金利を検討するだろう。また、そうすべきだと思う」と述べている。

しかし、バーナンキ氏はマイナス金利の必要性を条件付きで認めたものの、2月16日付の自身のブログでは、FRBが2008年に議会で銀行の準備預金に金利を支払うことが法的に認められたことの意義まで否定しない。「昨年12月の利上げ転換時に、FRBは準備預金の金利も0.25%から0.5%へ引き上げた。その結果、金融市場でFF金利も上昇したが、もし、FRBが銀行への準備預金金利の支払いができなかったら、FRBはこれまでの量的金融緩和で大量に取得した資産(債券)を急いで売却することで金融引き締めを実現しなければならず、その結果、金融市場の混乱の可能性が高まる」と述べている。ただ、これは米国経済が強くインフレ上昇リスクがあり金融引き締めの必要性がある場合で、FRBがなぜ準備預金の金利を引き上げたかを説明するものだが、リセッションとなれば話は違ってくる。

米国経済の“長期停滞論”を主張しているオバマ米大統領の元経済問題顧問のローレンス・サマーズ氏(元財務長官)もFRBはマイナス金利を導入すべきと主張している。同氏は2月17日付の自身のブログで、「米国がリセッションンに入る確率は来年が約30%、2018-2019年には50%を超す」とした上で、「リセションが近づいているにもかかわらず、信用スプレッド(国債と民間債の利回り差)の拡大や、日欧の一段のマイナス金利によるドル高進行(デフレ圧力上昇)、インフレ期待低下がますます米国の金融状況を一段と引き締め状態にする確率が高くなる。そうなると新たなQEの実施やマイナス金利の導入などの機会が出てくる。リセッションの克服には4%のFF金利の引き下げ相当の措置が必要になる」と見ている。

また、もともと2017年からの利上げ開始を主張していたナラヤナ・コチャラコタ前ミネアポリス地区連銀総裁も米経済専門サイト「エコノミストビュー」(2月9日付)で、「ずっとFRBはFF金利をマイナス金利にすべきといい続けてきた。マイナス金利への移行は勇気が必要だが、適切な金融政策だ」とし、「FRBの中期インフレ目標(2%)を早期に達成し、労働市場を急速に回復させ、危険なインフレ期待の低下を逆転させるのに役立つと主張する。

マイナス金利効果は経常赤字国だけ

一方、マイナス金利の功罪は国の債務状況によって違ってくるという議論もある。欧州政策研究センター(CEPS)のダニエル・グロス所長は著名エコノミストらが寄稿するプロジェクト・シンジケートの2月9日付電子版で、「マイナス金利は恒常的に経常赤字の状態が続いている米国や英国のような、いわゆる債務国にとっては恩恵(景気上振れ)だが、反対に、ユーロ圏や日本などの経常黒字国、すなわち、債権国にとっては有害(景気下振れ)そのもの。この違いが景気回復の差となる」と、国によってマイナス金利は利益にも害にもなると主張。また、「実際、大幅経常黒字のデンマークやスイスといった債権国で中長期金利はマイナス金利となっているが、その効果は見られない。低金利が消費を刺激するという金融政策の基本ルールを否定するものではないが、その効果は国の債務状態によって違ってくる」と話す。(了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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