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東アジアカップで感じた「2つの壁」〜「進化の壁」と「アジアの壁」

松原渓スポーツジャーナリスト

7月20日〜28日まで、韓国で東アジアカップが行われた。

男子はシード国の日本、韓国、中国と予選大会を勝ちあがったオーストラリアの合計4チームによる総当たり戦で行われ、女子は予選免除の韓国、日本、北朝鮮と予選を突破した中国の4カ国による総当たり戦で行われた。

結果は、男子が2勝1分(対中国△3−3/対オーストラリア○3−2/対韓国○2−1)の勝ち点7で初優勝。

大会3連覇がかかったなでしこジャパンは、1勝1分1敗(対中国○2−0/対北朝鮮△0−0/対韓国●1−2)の勝ち点4で2位という結果で幕を閉じた。

男子が優勝で女子が準優勝と、総合的な結果は良いが、内容は対照的なものとなったように感じる。

6月のコンフェデレーションズカップで3連敗を喫し、多くの課題を突き付けられたザックジャパン。

今大会はアルベルト・ザッケローニ監督がメンバー発表の場で「今回は新しい選手にチャンスを与えることにした」と話した通り、海外組を呼ばず、国内の若手・中堅を中心としたメンバーで今大会に臨んだ。

結果、中国戦で代表デビューした柿谷(C大阪)が3得点で大会得点王を獲得したほか、豊田(鳥栖)、斎藤(横浜)、大迫(鹿島)などが今後A代表に定着する可能性を見せた。

初戦の中国戦こそ、3−1から2点のリードを守りきれずに終盤に追いつかれたが、オーストラリア戦、そして韓国戦と、試合を追うごとに内容は良くなり、チームとしての一体感も増していったように感じる。

<なでしこジャパンがぶつかった進化の壁>

一方、なでしこジャパンは世界チャンピオンのエンブレムを胸に3連覇に挑んだが、日本らしいリズミカルなパスワークは影を潜めた。相手との戦いに負けたというよりも、自らの持ち味を出し切れなかった不完全燃焼さが、妙な後味の悪さを残した。

3試合を通じて痛感したのは「進化の壁」だ。

世界一になったW杯以降、なでしこジャパンのサッカーを研究し、虎視眈々と王座奪回を狙う他国の追随に負けない成長を図るべく、なでしこジャパンは組織力に磨きをかけつつ個のレベルアップを図り、メンバーが変わっても質の落ちないサッカーを目指してきた。

韓国に発つ直前の国内合宿で佐々木監督が熱心に取り組んでいたのは、ロングボールを使った縦に早い攻撃だった。

何本もショートパスをつないで崩すなでしこのスタイルとは正反対の、手数をかけないシンプルな攻撃。それこそが、今大会の一つのテーマだった。

なでしこジャパンの武器でもある中盤の組み立てが封じられた時に、現在攻撃陣をリードするエース・大儀見のポストプレーを生かした速い攻撃が生きてくるが、今大会は、最初からその形にこだわり過ぎてしまった印象がある。そのせいか、持ち味であるテンポのよい中盤のパスワークも影を潜めてしまった。

以前、INACの試合で澤(穂希)がこんなことを言っていた。

(INACのようなポゼッションをする相手に対し、ゴール前に引かれた時に)「裏のスペースを潰されると、2列目からの飛び出しも少なくなる。バルセロナも中、中、で外が空いてくる。中と外の使い分けをもっとしっかりしたい」

中を閉められた時に、サイド攻撃が生きてくるということだ。

これを今大会のなでしこジャパンに当てはめれば、「中盤でのポゼッションを相手が警戒し、前からプレッシャーをかけてきた時に初めて、縦の攻撃が生きる」。最初から縦ばかりを狙っても、効果的な攻撃にはならない。

もちろん、進化に壁はつきものだし、積極的なミスは成長の糧になる。

だが、今のなでしこジャパンにとって必要なことは、まずは原点に立ち返り、自分たちの武器を取り戻すことかもしれない。

そして、「誰が先発で出ても、質が落ちないパスワーク」を目指す。

次の世界大会は2年後。

「縦に速い攻撃」は、秘密兵器として、まだまだ温めておきたい。

<若手選手の台頭>

また、今大会では初戦の中国戦で2点目を決めた中島依美(INAC)が存在感を見せたが、彼女に続くような若手の台頭が待ち遠しくもある。

特に、今大会ではボランチとサイドバックの重要性を痛感した。

近年のなでしこジャパンの躍進は、この3つのポジション抜きには語れない。

澤穂希(ボランチ)の危機察知能力と展開力。

近賀ゆかり(右サイドバック)のオーバーラップと献身。

鮫島彩(左サイドバック)のドリブルのアクセントとクロス。

6月の欧州遠征、そして7月の日が東アジアカップを終えて、この3つのポジションが、いかに重要かを改めて感じた。

裏を返せば、この3つのポジション、3選手を脅かす選手の登場が求められているということだろう。

<アジアで勝つことの難しさとは>

上記に記したことのほかに、今大会ではアジアで勝つことの難しさも再確認した。

女子サッカーの世界で強豪といえば、ドイツ、アメリカ、ブラジルに日本を加えた4カ国がFIFAランク上位の4強。

だが、そういった強豪に勝つことと同じぐらい、「アジアで勝つことは難しい」と言われる。

ちなみに、今大会で対戦した3カ国のFIFAランクは、北朝鮮が9位。韓国が16位、中国が17位。FIFAランク3位の日本にとっては当然勝たなければいけない相手だが、W杯で日本が世界女王になった後でさえ、アジアで勝つことの難しさは変わっていないと感じる。

アジアで勝つことの難しさは、具体的にどこにあるのか。

それは、「ショートパスを繋ぐ/ボールポゼッションを高める/攻守の切り替えの速さを重視する」といった特徴を持つ日本とスタイルが似ていること。

ポゼッションではまだ日本が上回ってはいるが、負けないために、日本もより「質」を高めていかなければならない。

【中国】

かつてアジアのチャンピオンで、世界でも強豪といわれた中国は現在、世代交代の真っ最中だ。日本との対戦成績は日本の11勝6分け16敗と、合計ではまだ日本が負け越している。

【北朝鮮】

また、近年は日本が勝ち越しているが、現在のアジア最大のライバルはなんといっても北朝鮮。2011年のドーピング問題により2014年のアジアカップと2015年のW杯の出場資格がないため、今大会に臨むモチベーションは高かったはずだ。対戦成績は日本の5勝5分け9敗と五分。当面の間は世界大会で対戦する機会はないが、着々と世代交代を進めており、今大会も20代前半の選手を中心とした若いメンバーで臨み、優勝を勝ち取った。

【韓国】

そして、日本が今大会で唯一敗れた韓国は、近年、成長著しい。その中心は神戸のINACで背番号10を背負うチ・ソヨン。彼女を中心に、若い世代からも有望な若手が育ってきている。対戦成績は日本の14勝3敗8分けと勝ち越しているが、ポゼッションサッカーの質を着実に高めており、今後怖い相手になりそうだ。

<次の対戦は9月>

次のなでしこジャパンの試合は、9月のナイジェリアとの親善試合だ。

9月22日@長崎

9月26日@千葉(フクダ電子アリーナ)

6月の欧州遠征、7月のアジア大会、そして、9月はアフリカ勢との対戦になる。

スタイルが違う国との対戦は、特徴を出しやすい反面、弱点もより露になる。

2ヶ月後のなでしこは、どんな進化と答えを見せてくれるのだろうか。

再開するリーグ戦で、代表入りに向けた各選手のアピールも楽しみだ
再開するリーグ戦で、代表入りに向けた各選手のアピールも楽しみだ
スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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