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カナダ遠征メンバー発表。アジア競技大会を終えて考察~来年のカナダワールドカップに向けて

松原渓スポーツジャーナリスト

なでしこジャパンのカナダ遠征(10月25、28日/カナダ女子代表との国際親善試合2試合)に臨むメンバーが発表された。

招集されたメンバーは以下。

【GK】

福元美穂(岡山湯郷Belle)

山根恵里奈(ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)

【DF】

近賀ゆかり(アーセナルレディースFC)

岩清水梓(日テレ・ベレーザ)

鮫島彩(ベガルタ仙台レディース)

有吉佐織(日テレ・ベレーザ)

川村優理(ベガルタ仙台レディース)

熊谷紗希(オリンピック・リヨン)

【MF】

安藤梢(1.FFCフランクフルト)

宮間あや(岡山湯郷Belle)

川澄奈穂美(INAC神戸レオッサ)

上尾野辺めぐみ(アルビレックス新潟レディース)

阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)

田中明日菜(1.FFCフランクフルト)

宇津木瑠美(モンペリエHSC)

永里亜紗乃(1.FFCトゥルビネ・ポ ツダム)

【FW】

大野忍(アーセナルレディースFC)

大儀見優季(チェルシーレディースFC)

菅澤優衣香(ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)

高瀬愛実(INAC神戸レオッサ)

岩渕真奈(FCバイエルン・ミュンヘン)

今回は海外でプレーする9選手がメンバー入りしており、若手に多くのチャンスを与えた5月のアジアカップ、9月のアジア競技大会からはメンバー構成ががらりと変わった印象だ。FW大儀見優季(チェルシー)、宇津木瑠美(モンペリエ)はアジアカップでも出場したが、FW岩渕真奈(バイエルン)、DF熊谷紗希(リヨン)、FW大野忍とDF近賀ゆかり(ともにアーセナル)、FW安藤梢(フランクフルト)、田中明日菜(フランクフルト)の6人は今年3月のアルガルベカップ以来の招集となった。MF永里亜紗乃(ポツダム)とDF鮫島彩(ベガルタ仙台レディース)は2013年アルガルベカップ以来の招集となる。

アジア大会では高瀬愛実がつけた背番号「10」は、今回澤穂希が選ばれなかったこともあり、空き番号となった。

【不完全燃焼のアジア競技大会―優勝したアジアカップとの差はなにか?】

9月に行われたアジア競技大会(9/14~10/4)で、なでしこジャパンは2連覇を逃した。もちろん銀メダルは立派な結果ではあるけれど、十分に連覇できる実力と可能性があっただけに残念だ。なぜなら、相手は実力差の明らかな格下のチームが多く、日本が成長の真価を測れるレベルの相手は初戦の中国(FIFAランク14位)と、決勝で対戦した北朝鮮(同11位)の2チームだけだったからだ。その2チームも、FIFAランクは日本(3位)の方が遥かに上なのだ。

しかし、その2試合で日本は勝利を挙げることはできなかった。

初戦となった中国戦は、0-0のドロー。日本の持ち味であったはずの、相手のプレッシャーをかいくぐるパスワークは影を潜め、チームとしての方向性までもが曖昧になってしまった印象を受けた。決勝戦では、序盤から北朝鮮のフィジカルと正確な技術に押し込まれる時間が続き、カウンターからゴールを狙ったが、逆に北朝鮮に効果的にゴールを奪われ、1-3と完敗を喫した。攻守の切り替えが早かっただけに消耗の激しい試合となったが、交代枠を2つも残したのは疑問だ。

国際Aマッチデーではないため海外組を招集できなかったこともあり、ベストメンバーとは言えないチーム編成となった台所事情はあるが、出場国の条件は同じ。そのことを敗戦の言い訳にするのは苦しい。

遡ること4ヶ月前のアジアカップ(5/14~5/25@ベトナム)では、見事な勝負強さを発揮し、なでしこジャパンは大会初優勝を収めた。

この時も、国際Aマッチデーではないため海外組の招集は4人に留まっていた。しかし、DFでは岩清水梓、宇津木瑠美、MFでは澤穂希、宮間あや、川澄奈穂美、FWでは大儀見優季と、各ポジションに絶対的な主力メンバーが起用され、危険な場面ではミスをカバーすることができたし、チャンスの場面でも、決定力や連携など、女王の貫禄を見せつけた。

準決勝は120分間の激闘の末、澤と岩清水のゴールで中国に勝利し、決勝戦ではディフェンディングチャンピオンのオーストラリアと対戦。宇津木からのロングパスを岩清水が決め、優勝を掴んだ。経験のある選手が中心となって、随所に女王らしいプレーが見られた。

このアジアカップでは、近年、各大会で好成績をおさめている北朝鮮が、前回の女子W杯でドーピング違反が発覚し、失格となったために不出場だった。もし北朝鮮が出場していたら、きっと見応えのあるハイレベルな駆け引きが見られたことだろう。

メンバーが変わるだけで、これだけサッカーの内容が変わってしまうということに驚いた。

これでは、チームとしての方向性が見えないと言われても仕方がない。

今回発表されたカナダ遠征に臨むメンバーは、2011年のW杯優勝メンバーが21名中16名を占める。これまで起用されてきた多くの選手達の中で、個々の実力の足し算をするならベストに近いと個人的には思う。

ただ、今回の遠征も、目的は「来年のワールドカップを睨んだ選手選考の機会」(佐々木監督)。「様々な選手に経験をさせて、(チーム全体の)経験値と質を上げなければならない」(同)という。

佐々木監督のこの言葉を何度も自分の中で反芻してみたが、どうも腑に落ちない。

どれだけ個の質が高くても、その質を生かすコンビネーションという土台づくりを進めなければ、チームの「質」も上がらないはずだ。チームの経験値を上げるためには、様々な選手に経験させるのではなく、ある程度決まったメンバーで反復することが重要なのではないか。

来年行われるカナダ女子W杯(2015年6月6日~7月5日)に、日本はW杯とアジアのディフェンディングチャンピオンという肩書きを掲げて臨むこととなる。

そして、残された時間は8ヶ月を切っている。

【連覇のかかるW杯に向けて何が必要かーー3つの提案】

W杯後に選ばれたメンバーでは、GK山根恵理奈、DF川村優理、MF永里亜紗乃、FW菅澤優衣香の4名がメンバー入りした。永里以外の3選手はこれまでにも何度か招集されており、コンビネーションに関しては他の若手・新戦力の選手より一歩リードしていると言える。ただ、主力メンバーを脅かすような存在感を見せつけるには至っていない。

一方、アジアカップ、アジア大会で起用した初招集/若手選手から、今回の遠征に呼ばれた選手は0(ゼロ)。これは、新戦力のテストが失敗に終わったことを意味するのだろうか?

その答えを出すのはまだ早急かもしれない。なでしこリーグでは、浦和レッズレディースや日テレ・ベレーザなど、若手中心のチームが躍進を見せているのだから。実際のところ、7年後の東京五輪で日本が輝くためには、若手選手の台頭が欠かせない。

若手が輝き、チームとして融合するために何が必要なのか?

3つのポイントに絞って提案したい。

1)チームの方向性

アジア競技大会で中盤からの単純なロングボールが増えてしまったことは、 選手達の「迷い」がそのまま表れているようにも感じられた。

2011年W杯のなでしこジャパンは、どれだけ強いプレッシャーの中でも、中盤で繋ぎ倒した。 その自信を取り戻してほしい。チームと個人に明確なテーマを与え、足並みを揃えて目標に向かう「迷いのなさ」が、アジア競技大会では感じられなかった。そして、2011年W杯で、中盤のつなぎで世界を圧倒した日本には、澤穂希がいた。連覇に向けたチームには、やはり澤という特別なピースが必要だと考える。

2)選手選考

特にアジア競技大会では、選手選考に疑問が残った。

国内に目を向けると、精神的・戦術的大黒柱になれるMF澤穂希、経験豊富 でリーグ優勝の立役者ともなったGK福元美穂、アジアカップで目覚ましい成長を遂げたDF川村優理(仙台)、ワールドカップからなでしこジャパンのサブとして、FWからDFまでプレーできるユーティリティ性を見せてきた上尾野辺めぐみ(新潟)らが呼ばれなかった。

そして、代表初選出の3選手を含め、代表戦出場10試合以下の選手が8人選ばれた。一方で、「多くの選手に経験させること」を重視しなが ら、北朝鮮戦では交代カードを2枚も残している。それで結果を残せないのだから、ベテラン勢を呼ばなかったのが悔やまれるだけだ。特に、「ミスに対する厳しさ」という点では、ベテランの不在が響いたと感じる。

代表は「勝利を目指す場所」。

結果が注目度に直結する代表の試合では、犠牲にして良い結果などないはずだ。

提案したいのは、新戦力とベテラン選手の「バランス」だ。

特に若いうちに国際舞台を経験することは大切なことだと思うが、ベテランと共にプレーすることで得るものが大きいはずだ。世界に通用する判断力や技術、立ち居振る舞いに至るまで、若い選手たちが肌で学べることはたくさんある。そして、澤や川澄が常々話しているように、「代表に指定席はない」。若手選手は、物怖じすることなく、ポジションを実力で勝ち取るためにチャレンジし続けてほしい。

3)適材適所

アジア競技大会で、各ポジションの選手が適材適所ではないと感じる試合があった。

たとえば、どちらかのサイドに経験のない選手を集中させると、中盤がカバーせざるを得なくなり、負担が増える結果、中盤からやられてしまうだろう。同様に、選手同士のプレーの相性もある。

FWも同じ(似た)タイプの選手を2人並べるのと、異なるタイプを起用して相手の注意を分散させるのでは相手に与える脅威がまったく違う。アジア競技大会では、フィジカルを重視し、ロングボールやカウンターに偏ってしまった印象があった。

ワールドカップ以降、細かくつないで崩す日本のスタイルを踏襲する欧米のチームが増えたのは事実だ。一方、日本では欧米の選手達の身体能力や強さを肌で感じた選手達が海外に渡り、目を見はるような成長を見せてくれている。ただ、だからといってチームの戦い方をスピード、ロングボール重視の欧米型にシフトにするのは違うのではないか。世界には信じられないような身体能力を持った選手がたくさんいる。単純なロングボールで勝てる見込みはない。

元々持っている選手達のホットラインやパスワークという日本の強みを最大限に生かし、各選手の特徴が引き出されるような組み合わせを採用するべきだ。海外で経験を得た選手達の強さは、パスを繋ぐ中でも1対1の球際や読みの鋭さ、動き出しの精度などに自然と表れてくるはずだ。

あくまで個人的な意見を述べさせてもらったが、来年のW杯で再びなでしこジャパンが輝くために、産みの苦しみはギリギリまで続くのかもしれない。2011年も、直前のアメリカとの親善試合で完敗を喫し、上昇へのヒントを得た。

残り8ヶ月でチームが同じ方向を向き、一丸となって世界に挑む姿に期待したい。

2012年ロンドン五輪決勝戦で最強豪国アメリカに互角以上の戦いを見せたなでしこジャパン
2012年ロンドン五輪決勝戦で最強豪国アメリカに互角以上の戦いを見せたなでしこジャパン
スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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