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群雄割拠の女子サッカー界。なでしこジャパンの成長に欠かせない、U-23年代の覚醒

松原渓スポーツジャーナリスト
レベルアップが著しい世界の女子サッカー/写真は2011W杯ドイツ戦(C)松原渓

【ドイツの初優勝で幕を閉じたリオデジャネイロオリンピック】

先日、華々しい閉会式とともに、リオデジャネイロオリンピックが幕を閉じた。

女子サッカー競技では、ドイツが初の金メダルを獲得した。2連覇中だったアメリカ、同じく優勝候補の一角と言われたフランスが、準々決勝で姿を消し、開催国ブラジルが準決勝で敗れるなど、波乱の多い大会でもあった。

FIFAが国際大会に派遣するTSG(テクニカル・スタディ・グループ/変化し続ける世界のサッカーの傾向や戦術面の動向を分析し、それを各国協会に伝達し、サッカー界全体の発展をサポートするFIFAの精鋭グループ)の一員として、2010年以降、ワールドカップやオリンピックなどの国際大会の分析にも携わってきたなでしこジャパンの高倉麻子監督は、リオ五輪で見られた世界の女子サッカーのトレンドをこう分析する。

「大会ごとに、女子サッカー全体が確実にレベルアップしていると感じています。個のスキルやフィジカル面の強さも上がっていますし、その中で各国のスタイルもより強さを増しています。ブラジルは個人技に長けた選手がどんどん勝負を仕掛けますし、ドイツは個人技と組織力の両方を持っている。スウェーデンも監督が変わって、技術面でも復活してきた印象があります。日本は、今回はオリンピック出場を逃しましたが、このまま置いていかれるわけにはいかないので。技術的にも精神的にも、組織的、戦術的なところでも(他国の)さらに上を行けるように取り組んでいくつもりです」(高倉監督)

4年後に向けて、リオデジャネイロから東京へのバトンは手渡された。この4年間で、女子サッカーはさらなる進化を遂げるだろう。ドイツは連覇を目指し、女子サッカー大国アメリカは覇権を取り戻そうとさらに本気度を増してくる。躍進を遂げたスウェーデンはさらに女子サッカーに力を入れるだろうし、フランスは2018年のU-20ワールドカップと2019年のワールドカップ開催国であり、並々ならぬモチベーションがある。古豪ブラジルはもちろんのこと、オリンピックでは2大会連続で3位に入賞したカナダも成長著しく、不気味な存在だ。

女子サッカーは群雄割拠の時代に突入した。その中で、再び世界一を狙うなでしこジャパンの戦いも、すでに始まっている。

【千葉県で行われた3日間の合宿】

リオデジャネイロオリンピックアジア予選での敗退を機に新体制での新たなスタートを切ったなでしこジャパンは、3年後のワールドカップと4年後のオリンピックに向けて世代交代に着手しつつある。経験豊富なベテラン選手や海外組の存在はもちろん頼もしいが、代表チームの活性化には下の世代の台頭も欠かせない。

U-20日本女子代表が先日、8日間にわたりドイツでの強化遠征を行ったが、8月20日からは千葉県内でU-23女子日本代表候補合宿が行われた。

今回招集されたメンバーは、94年〜96年生まれ(20歳〜22歳)の23名。

FW田中美南(日テレ・ベレーザ)や道上彩花(INAC神戸レオネッサ)、成宮唯(コノミヤ・スペランツァ大阪高槻)など、なでしこリーグで活躍する選手から10人、2部から4人、3部にあたるチャレンジリーグからも1人が選ばれたほか、大学生も8人が選ばれた。

この世代を指揮するのは、なでしこジャパンとU-20日本女子代表も率いる高倉監督。なでしこジャパン同様、指揮官はこの年代でも新戦力の発掘に並々ならぬ意欲を見せている。

U-23日本女子代表の活動は、2月にスペインで行われたU-23ラ・マンガ国際大会以来、約半年ぶりとなる。5月に高倉監督がなでしこジャパンの指揮官に就任すると、このラ・マンガ国際大会で活躍を見せた選手たちの中から、中里優(日テレ・ベレーザ)、佐々木繭(ベガルタ仙台レディース)、千葉園子(ASハリマアルビオン)、高木ひかり(ノジマステラ神奈川)らが6月と7月の海外遠征でなでしこジャパンに抜擢された。

新たになでしこジャパンに呼ばれた選手たちのなでしこリーグでの活躍ぶりは、選ばれる以前に比べても目を見張るものがある。そして、その姿に刺激を受けている選手も多いはずだ。

今回のU-23日本女子代表合宿でも、トレーニング初日から、選手たちはなでしこジャパン入りに向け積極的なアピールを見せていた。

【世代間の競争、世代を超えて受け継がれるもの】

この世代は2020年の東京オリンピックでは24歳〜26歳を迎え、サッカー選手として脂が乗る世代でもある。だが、彼女たちがなでしこジャパン入りするためには高いハードルがある。それは、現在なでしこジャパンに入っている選手たちもさることながら、次世代の候補であるU-20の選手たちと競争してポジションを勝ち取らなければならないことだ。

高倉監督も、厳しい言葉で自覚を促す。

「(現在)U-20代表に入っている選手たちは、上の年代の代表にはまだ入れない(11月に行われるU-20ワールドカップが当面の目標)と言ってきましたが、その(U-20世代を除いた)中では正直なところ、なかなか(目に留まる)選手がいません。今回の合宿にはリーグや大学でコンスタントに(試合に)出ている選手を呼びましたが、いいものを持っているなと感じる選手はいます。この年代には頑張ってもらわなければいけないですし、技術もサッカーの理解度もフィジカル面も、すべての面で二段も三段も上がってほしいです。なでしこジャパンに入ることが他人事のような感じも受けるので、『我こそは』という選手が出てきてほしいですね」(高倉監督)

現在、育成年代の女子ワールドカップは17歳以下と20歳以下の年代で行われており、日本サッカー協会は、そのサイクルに合わせて、およそ2年刻みでチームを立ち上げている。必然的に、年齢が一歳違いの選手(U-20代表なら、19歳と20歳)たちが同じカテゴリーでプレーする形となる。

身体的な成長を考えると、必然的に年上が有利になるが、年下でも能力の高い選手は積極的に起用されてきた。

現・U-20代表候補の隅田凜、籾木結花、清水梨紗、長谷川唯(以上、日テレ・ベレーザ)、乗松瑠華、白木星、平尾知佳(以上、浦和レッズレディース)、杉田妃和(INAC神戸レオネッサ)の8人は、現在のU-23世代とともに、U-17ワールドカップ(2012年アゼルバイジャン大会)を戦った経験を持つ。

長谷川と杉田は飛び級で上のカテゴリーに抜擢され、2人を除く6人は一つ下の代(16歳)ながら、チームに欠かせない存在となった。

若くして能力や可能性を認められたからこそ、年齢制限の壁を乗り越え、限られた「枠」を勝ち取り、国際経験を積んできた選手たちである。

現・U-23世代も、才能を評価された選手は少なくなかったが、結果的には下の世代の突き上げと競争に晒されてきた。

そして、この現・U-23世代は、世界の舞台でも悔しい思いをしてきた。

2011年のU-16アジア選手権で優勝したが、翌年のU-17ワールドカップ(2012年アゼルバイジャン大会)はベスト8で敗退を余儀なくされた。この2012年の前後2つのU-17代表は、それぞれワールドカップで準優勝(2010年トリニダード・トバゴ大会)と優勝(2014年コスタリカ大会)という華々しい結果を残している。この前後2つのU-17代表と比較すると、2012年のU-17代表のベスト8という成績にはどうしても物足りなさが残る。

また、この世代が出場するはずだった2014年のU-20ワールドカップは、前年のU-19アジア予選(AFCU-19女子選手権2013)で敗退したため、本大会に出場できなかった。このU-19アジア予選も、前後のU-19代表(2011年大会と2015年大会)はアジアチャンピオンに輝き、アジア女王として臨んだ2012年のU-20ワールドカップ(日本大会)では世界3位に輝いている。

U-17年代とは違い、U-20の年代になるとフィジカル面や組織力が飛躍的に上がる国も多く、それまでとはまったく異なる緊張感やプレッシャーの中で世界と戦わなければならない。その経験も、選手たちの伸びしろに関わってくる問題だろう。その機会を失ったことは、日本女子サッカー界の損失である。

先に触れた、飛び級で上のカテゴリーに抜擢された8人のうち、杉田を除く7人は、予選で敗退したこのU-19アジア予選に参加したメンバーでもある。現・U-23世代とともに戦い、U-20ワールドカップへのチケットを逃し、悔しい思いをした彼女たちが新たなU-20世代の中心となり、現在のなでしこリーグでもコンスタントに出場機会を得ていることは、決して偶然ではないだろう。

この才能豊かな現・U-20世代は、高倉監督の下で、育成年代のすべての大会でチャンピオンに輝いてきた。今年11月に行われるU-20ワールドカップ(パプアニューギニア大会)でも、活躍が期待される。

こうして見ると、世代間の競争もある一方で、世代を超えて受け継がれるものもあるのだと、つくづく感じさせられる。

今回のU-23日本女子代表合宿に呼ばれた選手の中には、これまで代表に縁がなかった選手もいる。合宿を通じ、高倉監督と大部由美コーチという、なでしこジャパンの指導陣の言葉に自覚を促され、代表チームが目指すサッカーのコンセプトを学べるという点でも、有意義な合宿になったはずだ。

【加速する代表入りへの競争】

合宿初日(21日)は、パスやボールコントロールのトレーニングに始まり、5対5の練習ではオフザボールの動きや、ボールを持った際には常に複数の選択肢を持ってゴールを狙うことなどを徹底。なでしこジャパンやU-20代表も取り入れている、1対1の守備も重点的に行った。

最後に行われた紅白戦では、ボランチを務めた田中萌(神奈川大)のプレーが光った。中盤で攻守にわたって積極的なプレーを見せ、後半には豪快なゴールを決めた。田中(萌)は、今年インカレ(全日本大学女子サッカー選手権)で準優勝に輝いた神奈川大学の中心選手だが、普段は関東女子サッカーリーグで戦っており、なでしこリーグの選手との対戦は、年末の皇后杯を除いてほとんど機会がない。だが、この紅白戦を見る限り、なでしこリーグ1部でも十分に通用すると感じさせるプレーぶりだった。

「ゲームでは自分の特徴である攻撃面をアピールしたいと思ってゲームに入りました。大学と似たような練習もありましたが、周りのレベルが全然違いましたし、球際の寄せ方や守備ではもっと自分の力を上げたいです。今まで代表のことは具体的に考えたことがなかったんですが、今後は普段の練習からなでしこジャパンに入ることをイメージして練習に取り組んでいきたいと思います」(田中萌)

いつもは違うリーグでプレーする選手たちとのトレーニングを通じて自らの「現在地」を知り、「上には上がいる」ことを肌で知ることも、貴重な経験となったのではないだろうか。

次のワールドカップまでは3年あるが、与えられた時間は多くはない。U-20ワールドカップが終われば、来年以降、なでしこジャパン入りへの競争はさらに加速するだろう。そのスタートダッシュに乗り遅れないためにも、この代表候補合宿で感じたことを、それぞれがチームや自らのトレーニングにしっかりとフィードバックしていってほしいと願う。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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