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サバイバルの中で高まる一体感。U-20ワールドカップに向け、ヤングなでしこは過去最高の仕上がりに。

松原渓スポーツジャーナリスト
U-20ワールドカップに向けて、チームは最終段階に入った(C)松原渓

【育成年代最後の大舞台】

静岡県内で、U-20(20歳以下)女子日本代表候補のトレーニングキャンプが10月9日〜13日の日程で行われている。

この年代は、2013年にU-16日本女子代表としてチームが立ち上げられて以来、4年間でアジアの頂点に2度(U-16/U-19AFC女子選手権)立ち、U-17ワールドカップでは世界一にも輝いた。

そんな”最強世代”が迎える、育成年代最後の大舞台。それが、11月13日からパプアニューギニアで開催されるU-20ワールドカップだ。

今回の合宿は、大会に向けた最後の国内キャンプとなる。

4年間チームを率いてきたのは、なでしこジャパンの指揮官でもある高倉麻子監督。長く女子サッカー界の育成に携わってきた指揮官は、大部由美ヘッドコーチとともに才能の発掘に力を注ぎ、競争の中でチームを進化させてきた。

元々、技術面では優れた能力を持った選手が多く、速いテンポでパスをつなぎ、高いポゼッションを誇る攻撃的なスタイルを貫いてきた。

だが、年齢が上がるにつれ、世界の壁は厚くなる。特に、欧米各国のパワーやスピードは20歳前後で一気に上がってくる。

しかし、日本もそれに対応すべく、今年は2ヶ月に1回のペースで強化合宿を行い、個と組織のレベルアップを図ってきた。

そして、その強化は着実に身を結んでいる。8月中旬に行われたドイツ遠征では、大会優勝候補のU-20ドイツ代表に1-0と勝利を収め、貴重な経験と自信を積み上げた。

「世界一へのラストステップ。前回女王ドイツに挑むヤングなでしこ」

出典:http://bylines.news.yahoo.co.jp/matsubarakei/20160811-00061020/

「本番間近のテストマッチ。強豪ドイツを圧倒したヤングなでしこ」

出典:http://bylines.news.yahoo.co.jp/matsubarakei/20160814-00061099

この年代はこれまで、ヨーロッパの強豪国との対戦経験が少なく、U-20ドイツとの試合では体験したことのないパワーやスピードに直面することとなった。だが、その中でもテンポの良いパスワークで相手のプレッシャーを交わし、終始日本のペースで勝利をものにできたのは大きい。

美しく揃ったDF陣のラインコントロールや、連動した守備も光ったが、1対1の局面でも簡単に競り負けない「強さ」を見せた。

個の強さは、トップのなでしこジャパンでも指揮官が強調して求めている部分だ。

同時に、組織としての強みもさらに伸びた。昨年8月に行われたU-19アジア選手権の時に比べると、ボールを回すリズムの緩急に、よりはっきりとメリハリがついた。また、相手が自陣に引けば縦横にボールを動かしておびき出し、前からプレッシャーをかけてくれば、FWが積極的に裏を狙うなど、相手の出方や局面に応じて瞬時に戦い方を変化させる場面も増えた。ダイレクトプレーも増え、イメージが選手間でしっかりと共有されていることが分かる。

選手の所属チームは、なでしこリーグ1部、2部、大学と様々で、練習環境やレベルも異なる。

だが、試合にコンスタントに出ている選手が多く、全体的にコンディションは良さそうだ。特に、今季リーグ優勝を決めた日テレ・ベレーザで主力として活躍する籾木結花、長谷川唯、隅田凜、清水梨紗の4選手や、現在2位のINAC神戸レオネッサでプレーする杉田妃和や守屋都弥ら、なでしこジャパンの選手たちとの競争の中で結果を残し、自信をつけている選手たちの急成長は、このチームにも好影響をもたらしている。 

【サバイバルの中で高まる一体感】

U-20ワールドカップ本番までラスト1ヶ月間。目標である「世界一」を力強くたぐり寄せるためにも、この合宿を含めた1ヶ月間のラストスパートが肝心だ。

今回の静岡合宿のテーマについて、指揮官はこう話す。

「全体的な戦術確認になりますが、『点を取る』ということに関しては特にこだわりたいです。最終的なメンバーは、調子の良い選手を選んでいきたいと思います。(21人は)今回のメンバーからほぼ入るとは思いますが、(いい意味で)非常に頭が痛いですね。」(高倉監督)

U-20ワールドカップにエントリーされるのは21人。今回の合宿に招集されたメンバーは24人であり、単純に考えればここから3人が「落選」する。また、内訳をみるとFWが3人と比較的少ない一方、DFは10人も選ばれており、相当な激戦区である。8月のドイツ遠征のメンバーからはほとんどが今回の合宿にも呼ばれているが、それ以外のメンバーではGK浅野菜摘(ちふれASエルフェン埼玉)、DF畑中美友香(伊賀FCくノ一)、DF羽座妃粋(日体大FIELDS横浜)MF水谷有希(筑波大)が新たに名を連ねた。

競争の中でも、チームの一体感は高まっている。合宿は10日(月)にスタートし、午前と午後の2部練習が行われているが、良い緊張感の中で、選手たちはそれぞれにキレのあるパフォーマンスを見せている。

高倉監督は、トレーニングの中で遊びの要素を取り入れたメニューから入る。和気あいあいとした雰囲気から、緊張感が求められる難易度の高いメニューへ、頭の切り替えや雰囲気のメリハリも大切にしているのだろう。そして、ヘディングやパスなどの基礎練習では徹底的に「質」にこだわる。

その後は戦術確認も含め、小さいコートでの4対4や6対6など、ポゼッションや切り替えを意識したトレーニングへと移っていく。ルールを様々に変化させ、頭を使うメニューの多さも特徴だ。

「常に縦を狙って、体の向きを考えて、目線は遠くに」

「動かしているだけじゃなく、どこかで(縦パスを)差し込んで」

「裏を狙って(動き出して)、読まれたらやめる」

練習中、監督とコーチが外から声を掛ける。

これまではプレーを止めて指示を与えることも多かったが、そういった場面は明らかに減った。選手はボールを動かしながら、投げかけられる言葉の意図をくみ取り、プレーに反映させるスピードが上がっているようだ。

メンバーが顔を合わせるのはドイツ遠征以来2ヶ月ぶりだが、今回の合宿ではそのブランクも感じられない。ピッチ内での声もよく出ており、11日(火)の午後に行われた紅白戦では実戦さながらの緊張感の中、ハイレベルな連携プレーが随所に見られた。

12日(水)の午後には、地元の藤枝明誠高校とのトレーニングマッチが予定されている。

今回の合宿の成果が内容と結果にどのように表れるのか、楽しみである。

合宿に向けた監督・選手のコメントはこちら

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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