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「五輪のないシーズン」を盛り上げた長野パルセイロ・レディース。なでしこリーグ1の集客力の秘密(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
ファン・サポーターに感謝を伝える本田美登里監督(C)松原渓

今季、女子サッカーはなでしこジャパンがリオデジャネイロ・オリンピックに出場できなかったため、注目度の低下が避けられず、「リーグ全体の観客動員減をいかに食い止めるか」という、切実な問題にも直面した。

その中で、明るいニュースを届けたのがAC長野パルセイロ・レディース(以下:長野L)だ。

今季、長野Lはホームゲーム9試合で32826人、平均して3647人の観客を動員。これはリーグ1位の数字で、2位のINAC神戸レオネッサ(2821人)、3位のアルビレックス新潟レディース(2377人)を大きく引き離した。

また、昇格1年目ながら、日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)、I神戸に続く3位の成績でシーズンを終えた。スタジアムの雰囲気の良さも、上位をキープし続けた原動力となった。

「リーグの表彰で、観客が多いチームの表彰がないのが残念ですね。」

ホームで行われた最終節の試合後、本田美登里監督はそんな言葉で、応援してくれたファンやサポーターを労った。

女子サッカー競技に限らず、集客は永遠のテーマだ。なぜ、長野Lはこれだけ人気を集めるのか。

現在は皇后杯が行われているが、リーグ戦を終えて、改めて長野Lの躍進と人気の理由を検証してみたい。

快進撃を続ける長野パルセイロ・レディース。昇格1年目の”長野旋風”とは?

出典:http://bylines.news.yahoo.co.jp/matsubarakei/20160510-00057545/

1)「3点取られても4点取る」サッカー

12勝1分5敗、38得点(リーグ3位)34失点(同ワースト2位)。

得点と同じぐらい、失点も多いシーズンだった。1試合で(対戦相手のゴールも含めて)5ゴール以上の打ち合いになった試合が9試合あり、平均すると1試合あたり4ゴール以上が生まれている。その中で、接戦を勝ち切る勝負強さが光った。見事なゴールで勝ち越したかと思えば、カウンターからあっさりゴールを許すことも多く、サポーターにとっては心臓に悪い試合も多かっただろう。だが、「3点取られても4点取って勝つ」派手な試合は、観る者を楽しませた。

今季、長野LはベレーザやI神戸のように、相手の戦い方によって、速攻と遅攻を使い分けるような器用さは持ち合わせていなかった。だが、強豪を相手にしても引いて守ることなく、常に高い位置からプレッシャーをかけ、ボールを奪うとゴールへの最短距離を考えたプレーが光った。試合ごとに個人個人が成長し、1部リーグのスピード感に順応するのも早かった。

長野Lのチームカラーについて、今季、アルビレックス新潟レディースから途中加入したFWの山崎円美はこう話す。

「本田監督は選手のモチベーションを上げるのが上手いですし、勝たせ方を知っています。やることが徹底していて、(選手が)ここぞという場面で力を発揮出来るんです。」(山崎)

本田監督は、選手に「ボールを持ったら前を向け」と言い続けてきたという。ボールを持ったらパスコースを探すのではなく、まずゴールを意識させる。シンプルなことだが、彼女たちがピッチでのびのびと躍動できたのは、その徹底した指導も大きかった。

来季に向けたチームの課題は、「失点を減らす」ことだ。今季は昇格1年目で、序盤戦は他チームからの研究が徹底されていない中で勝ち点を重ねることができたが、来季は同じようにはいかないだろう。組織としては、よりリスクマネージメントを重視し、相手に合わせて変化に柔軟に対応できるような攻撃の幅を持つことも求められる。

2)”長野旋風”の主役は?

長野Lの得点源でもある横山久美は、今季、リーグ戦18試合で16ゴールを決めた(カップ戦も含めると3度のハットトリックを達成し、24試合で25ゴール)。得点女王の座はベレーザの田中美南に2ゴール差で届かなかったが、2部リーグで2年連続得点女王に輝いた横山の決定力が、1部リーグでも十分に通用することを証明した。

長野Lのエース、横山久美
長野Lのエース、横山久美

どんな角度からでもネットを揺らせるシュート技術の高さは、すべてのチームの脅威となった。後半戦、他チームに研究されてもなお、横山はゴールネットを揺らし続けた。

筆者も幾つかのゴールを会場で見たが、リーグ17節のベレーザ戦で決めたゴールには鳥肌が立った。村松智子、岩清水梓、有吉佐織というなでしこジャパンのDF3人をドリブルで次々にかわし、GK山下杏也加の動きの逆を狙い決めたゴールは、鉄壁を誇っていたベレーザの、11試合連続無失点記録を破った瞬間でもあった。

横山の独特のリズムと緩急のあるドリブルを止めるのは難しい。とはいえ、警戒して複数の守備で対応すれば、マークが手薄になった味方をシンプルに使う。対峙する相手ディフェンダーは、高度な判断と瞬時の対応を求められる。

これだけゴールを決められる理由について、横山自身が真っ先に言及するのは、「スタジアムの雰囲気の良さ」だ。

「ホームの試合では、自分が決めることによってサポーターも沸きますし、たくさんのお客さんが喜んでくれます。それもゴールが入る要因ですね。昨シーズンは自分が点を入れないと勝てない試合が多かったので、その責任感も持って、常にゴールを狙っています。」(横山)

観客の声援が選手の背中を押し、結果を残すことで観客が増えて行く。その好循環も、”長野旋風”につながった。

(2)に続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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