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2017年のなでしこリーグで躍進するのはどのチームか?ー岡山湯郷ベル(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
信頼を取り戻し、新たな文化を築く(写真:アフロスポーツ)

2月15日(水)〜19日(日)まで、千葉県内で、なでしこリーグ1部と2部、韓国のクラブ1チームの計9チームによる千葉交流戦が開催された。

3月26日のなでしこリーグ開幕に向け、各チームがどのような仕上がりを見せているのか取材した。

今回は、岡山湯郷ベル(以下:湯郷/なでしこリーグ2部)の2017年シーズンを展望する。

昨シーズンは、湯郷にとって受難の年だった。

6節から最終節までに13連敗を喫し、2005年の1部昇格以降、初の2部降格となった。

2016年の7月下旬に主力選手の退団をめぐる問題が明るみになり、シーズン中にスターティングメンバーが大きく入れ替わる事態になった。そして、その悪い流れを最後まで断ち切ることができなかった。

中でも、チームを創設時から支えてきた宮間あやと福元美穂の退団は、起きた事態の深刻さを象徴していた。

在籍14年目だったGKの福元美穂は、シーズン途中にINAC神戸レオネッサに移籍。また、なでしこジャパンのキャプテンを4年間務め、湯郷の象徴的な存在でもあったMF宮間あやは、契約満了を待ち、シーズン終了後に退団した。2人の退団と前後して、多くの主力がチームを離れ、GMや監督、コーチも退任した。

原因をめぐる憶測は様々に報じられたが、当事者にしか分からない真実や葛藤もあったのだろう。チームは繊細な生き物であるということを、改めて感じさせられる出来事だった。

【1年で1部への再昇格を目指す】

多くのものを失ったチームが、こんなにも早く、新たな形での再スタートを切ったことには驚きもあった。

だが、それは必然とも言える。

岡山県内陸部の美作市にある温泉地から育ったチームは、地元の多くのファンにとって、心の拠り所とも言える存在だった。一連の騒動の中でも、多くのサポーターのメッセージがチームに届いていたと聞く。

2017年、新監督兼GMとして迎えられたのは、亘崇詞(わたり・たかし)氏だ。

現役時代はアルゼンチンのクラブチームなどでプレーし、指導者に転身後は、東京ヴェルディ1969のジュニアユース監督を経て、なでしこリーグの日テレ・ベレーザとASエルフェン埼玉でコーチを務めた。2015年には中国女子リーグの広東女子足球隊で監督を務めるなど、年代、性別を問わずチームを受け持ち、海外でもその指導力を発揮した。

「一時期は残る選手が4人ぐらいになりそうだった中で、これだけの選手が来てくれました。」(亘監督)

シーズンオフには新加入選手が18名加わり、メンバーは23名になった。FWには、元日本代表の木龍七瀬が加入。また、中盤には2012年に日本で行われたU-20女子ワールドカップでキャプテンを務めたMF藤田のぞみが、地元・島根の松江シティRagazzaから加入した。

そのほか、伊賀FCくノ一から4名、2部のコノミヤ・スペランツァFC大阪高槻から5名が加入。1部でのプレー経験を持つ選手が多いのは強みだ。GK登録が1名(上野友紀子)だけで、控えGKがいないという厳しい状況は今も続いているが、目指すは1年での1部復帰だ。

だが、今の湯郷とって、昇格という目に見える結果以上に大切なこともあると、亘監督は考えている。

「信用を取り戻すことが、今は一番の目標ですね。まずは全員が全力を出して頑張るチームを作って、ファンの人が『もう一回応援したいな』と思えるようなチームになりたいです」(亘監督)

千葉交流戦は、唯一、なでしこリーグ2部のチームとして参戦したが、4試合を戦って、1勝2分1敗。韓国のクラブチームに5-1で勝利した他、ベガルタ仙台レディースとの試合では、0-1の劣勢が続く中で藤田の美しいフリーキックが決まり、1-1の引き分けに持ち込んだ。

このチームで初めて一緒にプレーする選手も多く、連携面ではまだまだ、ぎこちなさも見られたが、一人ひとりが球際で体を張り、気持ちのこもったプレーを見せた。

2年ぶりになでしこリーグのピッチに戻って来た藤田は言う。

「一番のコミュニケーションは、一緒にサッカーをすることです。最初に集まった時は、(一緒にプレーしたことのある選手は)『あ、久しぶり』というぐらいで、全体的に静かな感じでした(笑)。でも、毎日、練習を重ねていくうちに積極的にコミュニケーションを取れるようになりました。(街が小さく、)みんなが近くに住んでいるというのも、ベルの良さだと思います。」(藤田)

本拠地の美作ラグビー・サッカー場は天然芝3面、人工芝1面を揃え、サッカーのプレー環境は申し分ない。なでしこジャパンの活躍で、「湯郷」の名を世界に発信した宮間も「日本で一番サッカーがしやすいピッチ」と、太鼓判を押していた。

フレッシュな顔ぶれで臨む、2部での新たなシーズン。

2部には、育成年代の才能豊かなタレントを多く抱えるセレッソ大阪堺レディースや、大型補強で1部昇格を狙う日体大FIELDS横浜、チャレンジリーグ(3部に相当)を圧倒的な強さで勝ち上がって来たオルカ鴨川FCなど、地力のあるチームが多く、1部昇格をめぐる戦いは熾烈を極めそうだ。

その中で、湯郷がどのような戦いを見せるのか、楽しみである。

美作ラグビー・サッカー場のスタンドで、幅広い年齢層の地元サポーターが、まるで自分たちの身内に声をかけるように、選手たちを激励する。選手とサポーターの距離が近く、のどかな感じがするその雰囲気は素晴らしかった。

今シーズンもあの光景が見られることを、期待している。

クラブ情報

岡山湯郷ベル

(2)【監督・選手コメント】に続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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