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6位でアルガルベカップを終了したなでしこジャパンの収穫と課題(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
順位決定戦でオランダと対戦した(C)松原渓

ポルトガルで行われているアルガルベカップに出場したなでしこジャパンは、順位を決定する5位/6位決定戦でオランダに2-3で敗れ、2勝2敗の6位で大会を終えた。

日本のスターティングメンバーは、GK山下杏也加、DFラインは左から鮫島彩、中村楓、熊谷紗希、高木ひかり。阪口夢穂と川村優理がダブルボランチを組み、2列目は左サイドが長谷川唯、右サイドが中島依美。FWには横山久美と田中美南が並んだ。

【あっという間に奪われた2失点】

FWミーデマが1トップを張る4-2-3-1のフォーメーションで、両サイドの裏のスペースにロングボールを入れてくるオランダに対し、日本は序盤から防戦を強いられた。

開始早々の1分、日本は左サイドの裏のスペースを取られ、オランダの右サイド、シャニセ・ファン・デ・サンデンのスピードを活かしたドリブルで、ゴール前まで持ち込まれるピンチを招く。オランダは彼女の快足を活かした攻撃を得意としており、日本は鮫島が終始、その対応に追われることとなった。

ラインを下げて引いてしまえば、裏を取られることもなくなるが、それでは、攻撃に転じる時や前線でのプレッシャーに支障が出る。裏を取られるリスクを覚悟の上で、日本はチームとして取り組んでいる前線からのプレッシャーを仕掛け、最終ラインを少しずつ上げていった。そして、徐々にボールを奪う回数が増え、ペースをつかんだ。

8分には中島が入れたライナー性のクロスは相手DFに当たってバーに弾かれ、ゴールはならず。高さのあるオランダに対し、グラウンダーの強いパスやクロスは効果的で、日本の先制点は時間の問題にも思われた。

だが、日本に流れが傾きかけていた13分、逆に、セットプレーから失点してしまう。オランダのCKがファーサイドにけり込まれると、GK山下が熊谷と重なる形でボールに触れず、中村にあたってゴール前にこぼれたボールを決められた。

あっさり先制ゴールをオランダに明け渡してしまうと、流れは再び相手に傾いた。日本は横山と田中が前線から相手にプレッシャーをかけてパスコースを限定し、選手間の距離をコンパクトにしてスペースを埋めるが、オランダのパススピードは速く、なかなか奪い取ることができない。それでも、最終ラインの熊谷と中村を中心に体を張って食い止め、反撃の機会をうかがった。

攻撃では、阪口が低い位置に下りてボールを捌(さば)き、ボールポゼッションを安定させようと試みた。しかし、自陣にブロックを作って組織的に守るオランダに対し、日本は相手陣内で効果的にボールを動かすことができない。

第2戦のアイスランド戦や第3戦のノルウェー戦は相手のカウンター攻撃の質がそこまで高くはなく、ミスが失点に直結することはなかったが、カウンターはオランダの十八番。危険なボールの奪われ方からピンチを招く場面が目立った。

19分には相手陣内のスローインから、再三、狙われていた日本の左サイドを崩され、0-2。警戒していたセットプレーとサイド攻撃から、わずか6分間に喫した2失点は、日本に重くのしかかった。

【横山のゴールで取り戻した流れ】

相手の流れに飲み込まれてしまいそうな中で、日本に流れを引き戻したのは、またしても背番号20の横山だった。

2度目の失点の1分後、長谷川からのパスを受けた横山がオランダのペナルティアーク手前あたりで素早く前を向くと、右足を一閃。20m近くある位置から放たれたミドルシュートは、相手GKが伸ばした指先をかすめ、ゴール中央に吸い込まれた。今大会4点目となる横山のゴールで1点差とした日本は、落ち着きを取り戻し、連動した攻撃で相手ゴールに迫った。

前線で田中が阪口のパスを収めて、右サイドの長谷川と中島が2列目から飛び出して攻撃に絡み、27分と30分には横山が惜しいシュートを放った。攻撃をシュートで終わらせることで、オランダのカウンターの脅威は半減された。

良い流れで前半を1-2で折り返した日本は、後半、高木に変えて右サイドバックに佐々木繭を投入。川村に代わってボランチに宇津木瑠美が入った。パスワークのテンポが上がってきた日本に対し、オランダのファウルは増えていった。

61分、田中のドリブル突破に対し、中央でマンディ・ファンデンベルフがたまらず足をかける。これが2枚目の警告となり、退場。日本は数的優位の状況で、残り30分間を戦うことになった。

しかし、ゴール前に分厚い壁を築き、カウンター狙いを徹底してくるオランダに対し、日本は押し込みながらも崩しきれない。

74分、中島に変えて中里優を右サイドに投入し、左サイドの長谷川に代えて籾木結花を投入。それまで両サイドバックの攻撃参加が少なかったが、相手が引いたことによって、サイドバックの鮫島と佐々木が積極的なオーバーラップからチャンスを演出し、ゴールに迫った。

日本の猛攻がようやく実ったのは、78分。籾木が左サイドからゴール前に入れたクロスが、クリアしようとした相手DFのオウンゴールを誘い、2-2に追いついた。

【数的有利を活かせなかった日本】

同点に追いついた勢いで、さらに逆転を狙った日本だが、相変わらずゴールは遠かった。

引いてゴール前を固めたオランダに対し、ボールを効果的に動かせず、中央で阪口がボールを持つと、ゴール前でラストパスを受けようと4、5人が同時に上がってしまう。ゴール前は混雑するばかりだった。

阪口はこの時間帯をこのように振り返る。

「攻撃のテンポがすべて一緒になってしまいました。すべてが勝負パスではなく、緩いパスとか短いパスを入れながら相手を引き出して、メリハリをつけて崩すことができませんでした」(阪口)

クロスは長身のセンターバックに跳ね返され、サイドから崩そうとしても、簡単なミスパスでボールを失ってしまう。前線でゴールを狙い続けた籾木は言う。

「攻撃に人数をかけている中で、(ボールの)奪われ方が悪かったです。後ろの人数は足りていましたが、奪われ方が悪く、同じ数でも、スピードで剥がされてしまう。(あの時間帯は)自分たちの攻撃をシュートで終わらせることが大切だったと思います」(籾木)

攻撃に人数を割いている分、奪われればカウンターを受けることは目に見えていた。日本は数的有利な状況を活かせず、逆に、オランダにスペースを与え、彼女たちは自分たちの強みともいえるカウンター攻撃を活かすことになった。

そして、最悪の事態は現実となった。試合終了間際、中村から佐々木へのパスをカットされ、ミーデマに決められてしまう。

2-3となり、間もなく試合終了の笛。

10人で戦いながら、最後の最後に劇的な勝ち越しゴールで勝利したオランダの歓喜が、ピッチ上に広がった。

【4試合を通じて見えた、収穫と課題】

「やってはいけない場所でやってはいけないミスパスをしたり、相手に引っ掛けられてしまう。ミスの多さには不満を感じています」(高倉監督)

口調こそ冷静だが、高倉監督は珍しく感情をあらわにした。

オランダは、これまでの3試合の相手とは違う強さを持っており、球際で伸びてくる長い足や、サイドの圧倒的なスピードなど、間合いの取り方が難しい相手だった。だが、それを差し引いても、自分たちのミスから3点を失ってしまったことは大きな課題である。

「(今大会は)4試合とも、失点シーンは自分たちの集中力が欠けるところが目立ちました。まだまだ、勝負に対しての勝ち方、勝負どころに対する危機感が足りないと感じます。」(高倉監督)

4試合で5失点。その多くが、ミスから喫した失点だった。

高倉監督の下で初の国際大会に臨んだなでしこジャパンは、4試合を通じて多くの課題を露呈しながら、成長を見せた。

その課題とは、選手間の距離、パススピード、試合の中での修正力、個々の状況判断、そして、勝負どころを見極めることである。それらが試合の中でより一層はっきりしたことは、大きな収穫と言える。

スペイン、アイスランド、ノルウェー、そして、オランダと、タイプの違う4か国と対戦し、拮抗した試合で起こりうる、あらゆる状況を体験できたことは、今後に繋がるトライであった。

このチームは若く、「伸びしろ」しかないのも大きな魅力である。

初めて日本代表としてピッチに立った選手もいたが、遠慮することなく、伸び伸びと自分の良さを出そうとトライしていた。その陰には、これまで代表を支えてきたベテラン選手たちの支えがあった。また、中堅の年齢に差し掛かる選手たちにも、「自分が代表を引っ張っていく」という意識が見えはじめた。約2週間の遠征の中で、新しい選手とベテラン選手の融合が見られた。

決勝では、カナダを1-0で破り、スペインが初優勝を飾った。

一方、リオデジャネイロオリンピックの準優勝国であるスウェーデンが7位に沈むなど、新たに台頭する国の代表チームを目の当たりにした大会でもあった。 

次のなでしこジャパンの活動は、4月9日、熊本で行われるキリンチャレンジカップだ。

対戦相手となるコスタリカ女子代表との試合は、高倉監督就任後、なでしこジャパンの国内初お披露目になる。

(2)【監督・選手コメント】に続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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