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AC長野パルセイロ・レディースの本田美登里監督が考える、なでしこの魅力とは(2)

松原渓スポーツジャーナリスト
今季はどのようなサッカーを見せるのか(C)松原渓

昨年、リーグ最多の観客動員数を記録した長野パルセイロ・レディース(以下:長野L)。

1部昇格1年目で3位と躍進した昨シーズンを受けて、今年、長野Lはどのような進化を目指すのか。

また、地元の人々から愛されるクラブになるために、どのようなことを大切にしてきたのか。

長野Lのトレーニングが行われている千曲川リバーフロントスポーツガーデンのクラブハウスで、本田美登里監督に話を聞いた。

AC長野パルセイロ・レディースの本田美登里監督が考える、なでしこの魅力とは(1)

【本田美登里監督インタビュー(3月17日)】

ーー練習で指導する際は、どんな言葉をかけるか意識されていますか?

言葉は選びますね。自分で判断して、決断して、自分で責任を取れるところがサッカーの一番面白いところだと思います。その判断を(選手から)奪ってしまうことは、サッカーの面白さを消してしまうことだと考えています。(選手としてやっていた経験から、)私も言われてやることが嫌いなんです(笑)。ですから、まずは考えさせてあげたい。だからこそ、(選手にとっては)楽しくて、難しいんですけれどね。

指示を待っている方が楽ですし、その方が好きな選手もいます。以前、「もっとパターンの練習をしてほしいです。そうしたら勝てるサッカーができるじゃないですか」と、ある選手から言われたことがあります。つまり、Aに(パスが)出たらBが動いて、Bが動いたらCが動いて、Dが点を獲る、というパターンの練習を、マニュアル化してやってほしい、と。「そうしたら、どうすれば良いのか分からない選手も分かるじゃないですか?」と。

私が「それじゃあ(個人の)判断(の余地)がなくなっちゃうでしょう?」と言ったら、「それでも、勝てることが一番楽しいんです」って言うから、私は「だから勝てないんだよ」と言いました。

今、ここ(長野)には、自分で考えてサッカーをすることが好きな選手たちが集まって来て、残っているんじゃないでしょうか。

ーー昨年からコンディショニングコーチを招聘して、フィジカル面の強化をしていますが、特にどのような面を強化していますか?

ストロング(ポイント)をさらに強くしていくのか、それとも、ウィーク(ポイント)をもっと良いものに変えていくのか、と考えると、ストロングポイントを鍛えた方が良いかな、と思っています。コンディショニング(コーチ)の樋口くんとは、一瞬の爆発力を生み出す、「グルート(=臀筋)」という、お尻周りの筋肉を鍛えようと話しています。横山がシュートの瞬間にブレないのは、体の軸の問題もあるし、腹筋の問題もあるし、踏ん張れる左脚があって、振り切る右脚もあるからです。

お尻の筋肉があると、その良さがさらに活きるのではないかと思います。

ーー本田監督は湯郷で指導をされていた時から、女子サッカーを地域から発信していく、ということを実現されていますが、長野ではどのような取り組みをされていますか?

湯郷の時と同じで、サッカー(を観る)文化が元々、長野にはあまりなくて、さらに、その中で「女子サッカー」という言葉自体がまったく使われていなかった。そんな状況で、どうやっていこうかな?と考えたら、「とにかく謙虚に頑張る」ということだと思いました。

ほとんどの選手が仕事をしながらサッカーをしています。その中で「謙虚さ」も、女子サッカーの売りだと思うんです。

会社で働かせていただきながらサッカーをやる(※)ためには、まずは会社の人に理解をしてもらうことが大切です。そのためには、もちろん遅刻はナシで、清潔感を持つことも大切ですし、「社会人としてちゃんとやろうよ」ということは(選手に)伝えています。会社の人たちに認めてもらうことで、じわじわと、いろんなところで認められるようになっていく。

同じOLでも、仕事を終えてから練習を頑張って、週末は(アウェイの試合で)遠征に行って、月曜日も遅刻しないで朝8時から仕事に行く。それを続けていくことで、共感してもらえるようになってきたんだと思います。そこに、偶然にも成績がついていった、という感じですね。

(※)長野Lの選手たちは各職場の協力を得て、仕事を15時までに終わらせ、16時から練習ができる環境である。

ーー生活面のことなどで、選手にもっとこうした方が良いと伝えていることもありますか?

うるさく言っていますよ(笑)。たとえば、18歳で高校を卒業した選手が高級な外国車に乗って、サッカー選手であることをひけらかしているのを見たり、インタビューの受け答えを見ていて「サッカーが上手いかもしれないけど、人としてどうなの?」と感じたことがあります。それは嫌だな、と。

宮間(あや)が小学校6年生の頃、すでにJリーグが始まっていたので、そのインタビューを真似して、彼女に「じゃあ宮間さんに質問です。今日の試合はどうでしたか?」と、聞く遊びをよくしていました。

「一生懸命、頑張りました。これからも応援よろしくお願いします」とか、そんなつまらないコメントは絶対になしね、と言って(笑)。

「(ゴールの場面を振り返って)たまたまボールが来たのでヘディングでシュートしただけです」とか、「(サポーターに向けて一言お願いしますと言われて)これからも一生懸命頑張りますので、応援よろしくお願いします!」って、誰もが言いますよね。でも、それではつまらないから、「宮間あやらしいコメントをしてごらん」と。そうすると、いろいろ考えて、小学校6年生でもそれなりのことを答えるようになるんですよ。その後、彼女がなでしこジャパンのキャプテンになって、しっかりとしたコメントをしているのを見て、頼もしく感じていました。

長野でも、「(インタビューで)自分らしい話をしよう」と言っています。それが、女子サッカーに興味を持ってもらうことの、一つのきっかけじゃないですか。男子サッカーはそういうことをしなくても興味を持ってもらえるかもしれません。でも、なでしこリーグはそうではないので、振り向いて(興味を持って)もらうための策はいろいろと考えてきましたね。

ーー昨シーズンの戦いを受けて、今シーズンはどのようなことを上積みしたいと考えていますか?

試合前のミーティングで「3点取られても良いから、4点取れば良い」という話は一度もしたことがないんですよ、本当に(笑)。でも、みなさんはそうやっていると思っているかもしれないですね。

アウェイの湯郷戦(14節)では「5-4」という試合をしたのですが、あの時は試合前に「今日はいっぱい点をとろう。最低でも3点〜4点をとって、失点はゼロで、気持ちよく勝って帰ろうね」という話をしたら、あのような打ち合いになってしまって(笑)。

長野で、サッカーをまだ見たことのない方が私たちの試合を見て、「点が入るわ取られるわで、ファンになりました」と言ってくださることがあるんです。それはそれで、(お客さんを増やす)戦略としてはアリだと思うのですが、さらに多くの方に見てもらうためにも勝つことが大事ですし、「1-0」や「2-0」といった、底力を感じさせるような試合をしたい、と思っているんです。

ーー今年は昨年よりも、結果へのこだわりが見えますね。

そうですね。サッカーらしい、玄人的なサッカーで勝てるようになりたいです。ですから、今シーズンは全員の守備の意識が高まっています。その分、もしかしたら得点が減るかもしれないので、ハラハラする試合を楽しみにされていた皆さんには、がっかりされてしまう可能性もありますが……。でも、フタを開けてみたら昨年と同じだった、となるかもしれませんけどね(笑)。

*****

インタビュー後、トレーニングを取材した。

約2時間の練習の中で、本田監督が指示を送る場面は数えるほどだった。紅白戦でも、メンバーを伝えると、タッチライン際で試合の行方を見守った。

しかし、そのサッカーには本田監督の哲学が、確かに反映されている。

「ボールを持ったら前を向く」

「ボールを失うことを怖がらずに、チャレンジする」

徹底してきたのは、シンプルなことだ。

その中で、選手たちが自分たちのサッカーを作り上げていく過程を、指揮官は楽しんでいるように見えた。

今シーズン、長野Lがどのような進化を見せるのか、楽しみである。

なでしこリーグ2017開幕まで、1週間を切った。

今シーズンの各チームの集客のための取り組みについても、引き続き注目していきたい。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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