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AC長野パルセイロ・レディースの本田美登里監督が考える、なでしこの魅力とは(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
独自のアプローチで女子サッカーを盛り上げてきた本田監督(C)松原渓

【リーグの集客を増やすために必要な策とは?】

なでしこリーグの開幕前記者会見で、1部の各監督が開幕に向けた意気込みを述べた際、AC長野パルセイロ・レディース(以下:長野L)の本田美登里監督の言葉が印象に残った。

今シーズンの意気込みを話した後、本田監督はこう続けた。

「(なでしこリーグ)理事長にぜひ、お願いがあります。今年、日本一の観客動員をしたクラブ、もしくはサポーターに、賞を出していただけないでしょうか。それは我々(クラブ側)というより、サポーターの皆さんの大きな力にもなると思いますので。クラブが日本一になることが一番ですけれども、サポーターの皆さんと一緒に、その目標を目指していきたいと思っています」

それは、本田監督ならではの秀逸なアイデアだった。

まず、サポーターがスタジアムに足を運ぶことの一つのモチベーションになるだろう。「地元のクラブを盛り上げよう」という機運が高まり、新規のお客さんが増える可能性があるし、うまくいけば、お客さんがお客さんを呼ぶ相乗効果も期待できる。それは、各チームのさらなる集客成果にもつながるだろう。

スタジアムで試合を観戦する楽しみは、勝敗や、応援するチームのサッカーを吟味することだけではない。

サポーターが作り出す雰囲気も、その一つ。手拍子や応援歌、地響きのようなブーイング。スタンドの空気が試合の流れや結果に影響を与えることは、プレーしている選手たちが一番良く知っている。

今年は代表チーム(なでしこジャパン)の大きな大会がなく、女子サッカーが注目されるきっかけが少ない状況である。そんな中でスタジアムに足を運ぶファンを増やしていくためには、リーグと各チームの関係者が中心となってアイデアを出し合い、それを実現させていく努力も必要だ。

【地方から女子サッカーの魅力を発信するということ】

なでしこジャパンがリオデジャネイロ・オリンピックアジア最終予選で敗退し、観客数減少が危ぶまれた昨シーズン、リーグの人気を支えたのは、本田監督率いる長野Lだった。

昨シーズンは1部リーグ昇格1年目ながら、「3点とられても4点とって勝つ」攻撃的なサッカーで、ホームで行われたINAC神戸レオネッサ戦(8節)では6733人、日テレ・ベレーザ戦(9節)では5160人もの観客を動員。ホームゲーム9試合で32826人、1試合平均3647人のリーグ最多観客動員数を記録し、リーグを盛り上げた。

「五輪のないシーズン」を盛り上げた長野パルセイロ・レディース。なでしこリーグ1の集客力の秘密

出典:https://news.yahoo.co.jp/byline/matsubarakei/20161102-00063954/

地方都市から女子サッカーの魅力を伝えるために、何が必要なのか?

「また観に行きたい」と思ってもらうためには、どのようなサッカーが良いのか?

人気を一過性のものにしないためにはどのようなことが必要なのか?

チームをサポートしてくれるスポンサーにとって、魅力的なチームとはーー。

長野Lというチームを通じて、本田監督は様々なアイデアを実現させて、発信している。

日本女子サッカーの黎明期だった1980年代、本田監督は、リーグを代表するスタープレーヤーの一人だった。そして、現役引退後は指導者として女子サッカーを牽引してきた。

岡山県美作市を拠点とする岡山湯郷ベル(現なでしこリーグ2部)の立ち上げに関わり、初代監督として、宮間あや、福元美穂らとともに、地元の人々に愛されるクラブに育てた。

2007年には女性指導者として初となる日本サッカー協会S級ライセンスを取得。2013年に長野Lの指揮官に就任してからは、湯郷ベル時代の経験を活かし、地元に愛されるクラブを目指しつつ、指導面でも大きな成果をあげてきた。

1部昇格1年目で3位と躍進した昨シーズンを受けて、今年、長野Lはどのような進化を目指すのか。

また、地元の人々から愛されるクラブになるために、どのようなことを大切にしてきたのか。

長野Lのトレーニングが行われている千曲川リバーフロントスポーツガーデンのクラブハウスで、本田監督に話を聞いた。

【本田美登里監督インタビュー(3月17日)】

ーー昨年、初めて1部でシーズンを過ごしてみて、選手がどのような点で成長したと感じますか?

勝っても負けても、自分たちのやりたいサッカーをやって納得していると思います。やらされているのではなく、監督の指示待ちでもなく、自分たちで試合に臨む準備をして、試合後は「あの場面はああすればよかった」とか、勝った要因についても話し合っています。ざっくり言えば精神的な面での成長ということですが、自分たちで責任を持ってサッカーをしているな、と感じますね。

ーー戦術理解度の面でも成長していると感じますか?

そうですね。ミーティングで「今日はシステムがこうだから、このように戦おう」というイメージは話しますが、試合によって対戦相手も変わるし、流れの中でシステムも変わる。それに対応しようとする選手がいれば、全く分からない選手もいるのですが(笑)、ハーフタイムに選手同士で話しながら帰ってくる場面が増えましたし、戦術理解をしようとしていると感じますね。

ーー練習の中では、選手にどのようなことを求めていらっしゃいますか?

最終的には、自分たちでピッチの中で感じたものを表現してくれる選手たちであってほしいと思っています。昨年はシーズンを通して戦っていくうちに、パルセイロのサッカースタイルを、見にきていただいた皆さんに、なんとなく分かっていただいたと思います。ただ、最初からあのサッカーを目指したわけではないんです。横山(久美)という選手がいて、ロングボールを蹴れる選手がいて、泊(志穂)という、こまめに走れる選手がいる。「だからこうしましょう」と私が作ったのではなく、選手たちと一緒に作り上げていったサッカーです。ですから、今年は新加入選手によって違うエッセンスが入ってくるだろうし、今は選手たちが自分たちでサッカーを楽しんで作っていると感じます。

ーー様々な個性やプレースタイルを、どのように組み合わせて、調整されているのでしょうか。

最終的には選手たちでまとめてくれれば良いと思っています。ただ、お山の大将になっちゃう選手がいると、それは叱らないといけないでしょうね。ただ、どの監督もそうだと思いますが、たとえば坂本(理保)に対する叱り方と、齊藤(あかね)に対する叱り方と、横山に対する叱り方は違うし、それぞれ「どう伝えたらどう返ってくるか」、その上で「どう伸びてほしいか」ということを考えて、(チームのメンバー)27人全員に伝え方を変えています。それは、経験を重ねてできるようになったことかもしれないですね。

ーー他のチームで出場機会を得られず、長野に移籍してきて活躍している選手もいますが、たとえば、自信を失いかけていたり、試合に飢えている選手に対しては、どのような言葉をかけていらっしゃいますか?

他のチームから移籍してきた選手は、移籍前はあまり頼られていなかったと思うので、まずは頼るようにしています。その選手たちがこのチームではレギュラークラスになっていくことをイメージして、「本当に頼むよ。○○にかかっているんだから」と。そうすると、選手たちも「頼られている」という意識を持って真剣にやろうとしてくれるんだな、と感じるんです。それも、これまでの経験の中で感じるようになったことです。

(2)本田美登里監督インタビューに続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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