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なでしこリーグ2017開幕直前。2013年以来のタイトル獲得を目指すINAC神戸レオネッサ(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
皇后杯は2010年からの7大会中6大会で優勝している(写真:アフロスポーツ)

なでしこリーグ1部開幕を26日に控え、今回は4年ぶりのリーグタイトル奪還を目指すINAC神戸レオネッサ(以下:INAC)の2017年シーズンを展望する。

なでしこジャパンが女子ワールドカップで優勝した2011年以来、リーグ3連覇やシーズン4冠(2013年)など、一時代を築いたINAC。

2013年以来、リーグタイトルから遠ざかっているものの、皇后杯は2010年からの7大会中6大会で優勝している。リーグ戦はチームの総合力が試される中、短期間のトーナメントで結果を出し続けた要因の一つに、競った試合をモノにする『試合巧者』の実力もあった。

2015年から指揮をとる松田岳夫監督の就任1年目にリーグで3位、昨年は2位と着実に順位を上げてきた。右肩上がりの順位に比例するように、そのサッカースタイルのチームへの浸透度も確固たるものになりつつあり、監督就任3年目の今シーズンは2013年以来のリーグタイトル獲得を狙う。

【転機となった2011年と2014年】

チームのスタイルを築く上で転機になったのは、2011年。

元々、サイド攻撃を活かした縦に速いサッカーが特徴だったが、2011年に澤穂希、大野忍ら、日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)出身の選手たち4人が加わったことで、中盤で丁寧にボールをつなぐことが可能になり、攻撃パターンが多様化した。そして、結果的にチームのボールポゼッション率が高まり、試合の主導権を握ることができるチームに成長した。

そして、この年を境に多くのメンバーを代表に送り出すようになり、2011年のワールドカップ優勝の勢いも味方につけ、2011年〜13年までリーグを3連覇。2013年にはリーグ戦、リーグカップ、皇后杯、国際女子サッカークラブ選手権の4冠を獲得するなど、一時代を築いた。

しかし、2013年を機に主力メンバーの入れ替わりや世代交代が進む中、2014年はリーグ戦で6位と下位に沈み、皇后杯もベスト8で敗退。ベテランと若手を融合させ、チームのスタイルをより確かなものにするため、2015年に複数年契約で迎えられたのが松田岳夫監督だ。98年〜99年と、05年〜08年の2度にわたってベレーザを率いた松田監督は、2011年のワールドカップ優勝メンバーの多くを指導し、05年から08年までなでしこリーグで4連覇を達成するなど、多くのタイトルを獲得した実績を持つ。

チーム関係者によると、松田監督の指導は「365日、同じ練習がない」という。

トレーニングで使い分けるビブスの色は5色になることもあり、狭いスペースでルールの制限が様々に加えられていく。「頭を使いながら走る」ことを求められる中で、1年目(2015年)は「体以上に頭が疲れる」と口にする選手も多かった。

同じメニューがないのは、単に練習のマンネリ化を避けるためだけではない。一つひとつのメニューに明確な目的があり、似たようなトレーニングでも、強化するポイントによって内容は微妙に変化がある。

「まずは足りない部分を強化するための練習をして、その練習で達成できない部分は練習の内容を変えて、違う角度からアプローチしていく。選手が目的を理解するまでに時間はかかりますが、確実に(選手は)育っていると感じます」(チーム強化部関係者)

練習の中で大切にしていることについて、松田監督はこのように話す。

「実はサッカーが好き、知っていると思っている選手たちも、もっと上があることをまだ知らない。サッカーは奥深く、僕自身、まだわからないことがたくさんあります。そういう部分をまず選手に知ってもらうこと。知ってもらう中で、(それぞれの選手が)自分の良さを出していってほしいと思っています」(松田監督)

松田監督がINACに就任した頃、多くの選手たちは、その厳しい言葉の裏に隠されたユーモアや皮肉の真意を汲み取ることが簡単ではなかったはずだ。だが、1、2年目に比べると、チームは全体的に余裕が感じられるようになった。最初は練習のルールや目的を理解するのに精一杯だった選手たちも、今では頭を使いながら駆け引きを楽しむ余裕を持てるようになっているようだ。

だが、松田監督は、

「サッカーを楽しめていると思うのは、まだ何人かですよ」

と、笑顔で言葉に力を込めた。

澤穂希、加藤與恵、荒川恵理子、小林弥生、伊藤香菜子、大野忍、近賀ゆかり、岩清水梓、永里優季、宇津木瑠美、岩渕真奈。

かつて指導した選手たちの多くは、代表で活躍してきた。また、ベテランと言われる年齢になっても、それぞれ第一線で活躍し続けている選手が多い。その選手たちに共通することは、誰よりも深く、サッカーの楽しさを知っていることだろう。

【ハードワークを支える2部練習】

ポゼッション率を高めて相手ゴールを目指す攻撃と、縦に速い攻撃を状況に応じて使い分けるINACのスタイルは、個々のハードワークがベースになっている。INACのプレー環境の良さも、そのハードワークを可能にしている。 

INACは選手をグループ企業で雇用しながら社業としてサッカーをしており、全選手が『プロ選手』に準ずる環境を提供されているため、なでしこリーグでは唯一、日中にトレーニングできる環境が整っている。全員が同じサイクルで生活しているため、長期合宿も可能だ。

トレーニングが午前のみの日は、午後の空いた時間にグラウンドで個人トレーニングをしたり、ジムで筋力トレーニングをしたり、体を休ませたりと、各々が時間を有効に活用していた。こういった環境の良さは、なでしこリーグのチームの中で群を抜いている。

自分のルーティーンを持ち、オンとオフの切り替えができるベテラン選手と違い、高校を卒業したばかりの1〜2年目の若い選手にとって時間の使い方は難しいテーマだ。

しかし、松田監督のもと、現在の若い選手たちはとても恵まれている。

「若い子は練習をしなければ上手くならない」と話す松田監督は、2015年以降、午前、午後の一日二部練習を週に3回、行ってきた。

午後の練習に参加する選手は監督の指名制だが、体力のある若手選手たちは基本的に全員参加が義務付けられている。一方、中堅やベテランも希望して二部練に参加する選手が多いという。

基礎体力の向上や、コミュニケーションを深めるという点でも、INACの選手たちには、恵まれた環境が整っている。

【キープレーヤーは?】

今シーズン、INACは新加入選手8名を迎え、チームの3分の1が入れ替わった。

特に、昨年までセンターバックとしてチームを支えた甲斐潤子が引退し、最終ラインは再構築を強いられている。韓国の高麗大学から加入したホン・ヘジと、浦項女子電子高校から加入したチェ・イェスルは、頼もしい戦力になりそうだ。

ホン・ヘジは174cm/66kgと、体格に優れ、韓国女子代表にも選ばれているプレーヤーだ。2月から3月にかけて代表活動で抜けていた時期もあり、連携面の調整はこれから。言葉の壁もあり、フィットするには少なからず時間がかかりそうだが、昨シーズン所属したMFチョ・ソヒョンのように、1年間で主力として定着できれば大きい。

FW大野忍やMF中島依美、杉田妃和らを中心に、前線の顔ぶれに昨年から大きな変化はない。中でも、在籍3年目となるボランチの杉田妃和は、今シーズンの活躍が期待される選手だ。

昨年は1年間を通してコンスタントに試合に出場し、加入2年目にしてリーグ新人賞を受賞した。また、11月のU-20女子ワールドカップでは、U-17女子ワールドカップに続く2つ目のゴールデンボール(最優秀選手賞)を受賞した。

足裏を巧みに使ったボールコントロールと、腰を落とした懐の深いボールキープでタメをつくり、長短のパスで前線の攻撃陣を活かす。昨シーズンからは周囲に積極的に指示を出す姿も多く見られるようになり、成長著しい。

2015年に澤とボランチを組み、皇后杯優勝に貢献したMF伊藤美紀がケガのリハビリから復帰し、今シーズンは杉田とダブルボランチを組む可能性が高い。

「周りの選手の特長を活かすために、試合を全体的に見られるような視野と余裕を持ってプレーしたいと思います。」(杉田)

INACが開幕戦で対戦するのは、1部昇格1年目のノジマステラ神奈川相模原だ。

松田監督はチャレンジャーとして、この試合に臨みたいと話す。

「開幕戦は難しくて、いいプレーをしようとイメージしすぎると、変にタッチ数が多くなったり、いつものプレーができなくなる。トレーニングで身につけたもので、自然と体が動くのが本当の力だと思うので、本能でプレーしてほしいと思います」(松田監督)

なでしこリーグ開幕戦は、タイトル奪還に向け、INACにとって重要な一戦となる。

INACは、リーグ戦のホームゲーム9試合とカップ戦のホーム5試合をウェブでライブ配信することを発表した。また、チーム応援番組「INAC TV」も、同ページにて隔週で配信予定だ。

http://inac-kobe.com/news/2080

(INAC神戸レオネッサ 公式HPより)

[配信予定の試合]

【LIVE配信】

2017プレナスなでしこリーグ1部 ホーム9試合

2017プレナスなでしこリーグカップ 予選リーグ ホーム5試合

[応援番組]INAC TV

[配信日時]隔週木曜日 第1回目は3月30日(木)15:00

(2)【監督・選手コメント】に続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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