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オリンピックとスポンサー(2)

松岡宏高早稲田大学 教授
開会式の演出にもスポンサーが貢献している(写真:ロイター/アフロ)

オリンピック憲章の定めによって競技会場に広告看板が設置できず、社名や商品名が世界各国のオリンピック中継において露出されることがないにもかかわらず、何百億とも言われるスポンサー契約を締結する企業は、何を狙いとしているのであろうか?

一般的なスポーツスポンサーシップのメリットとしては、認知度向上、イメージ改善、販売促進が挙げられる。オリンピックの場合は露出が少ないために認知度向上はあまり期待できないが、TOP(The Olympic Partners)パートナー企業の多くは世界的に有名な企業であるため、そもそも認知度向上を主目的とはしていないであろう。イメージ改善については、世界最大イベントのパートナー企業であるという肩書は、世界トップの企業であることを強く印象付ける。ただし、テレビ中継での露出がない中でこの効果を活かすためには、企業自らの広報活動が必要になる。そして販売促進としては、「RIO 2016限定デザイン「コカ・コーラ」ゴールドボトル」、マクドナルドの「必勝バーガー」の販売などがこれに相当する。

しかし、露出が少ないオリンピックのスポンサー企業の狙いは、飲料やハンバーガーを売ることだけではない。そもそもTOPパートナー全12社の中には、個人消費者を対象にビジネスを展開するB to C企業だけではなく、企業向けに事業展開するB to Bや公的機関を対象としたB to G(Business to Government)を中心に事業展開する企業も含まれている。例えば、1987年から長くTOPパートナーである日本のパナソニックも、自社製品のテレビで「オリンピックを応援しよう!」という個人消費者向けの販売促進活動以上に、企業や公的機関向けの事業における効果を重視しているようである。

先日開催された日本スポーツマネジメント学会第21回セミナー「2020年に向けたスポーツと企業の関係」に登壇した北尾一朗氏(パナソニック株式会社東京オリンピック・パラリンピック推進本部副本部長)によると、リオ五輪にはLED大型映像表示装置72画面、プロジェクター約310台、放送機器のカメラやモニターなどがパナソニックによって提供されている。そして同社の技術と商品が、開会式の演出や競技運営(審判員の競技判定など)に大きく貢献している。世界の企業や公的機関が注目するオリンピックはスポンサー企業にとっては「ショーケース」であり、技術や商品の質の高さを披露する場である。この同社の取り組みは一般視聴者にはあまり認識されないが、企業や公的機関の関係者にインパクトを与えることは、個人消費者に商品を売ること以上の効果が期待される。

北尾氏によると、さらに2020年東京大会に向けては、オリンピック・パラリンピックを通して国や東京が抱える課題の解決策を提案することを狙いとしているそうである。セキュリティ、エネルギーマネジメント、訪日外国人へのおもてなしなどは、東京五輪の課題であると同時に、国や各都市が抱える問題である。現在、同社が新橋駅前で行っている「グリーンエアコン」の実証実験もこの取り組みの一つである。このような社会への貢献が、結果的には企業への信頼や好意的態度を高める、ブランディングに結びつく。

オリンピックにおけるスポンサーの狙いは、単なる企業名・商品名の露出から販売促進活動へ、さらにスポーツ界とともに様々な社会問題の解決に取り組むことにまで拡張してきた。前述の学会セミナーにて大西孝之氏(龍谷大学)が提示したように、スポーツ側とスポンサー企業側がともに社会的責任を果たし、両者が持続的成長を確保する「CSR発想のスポーツスポンサーシップ」が求められるようになっている。

早稲田大学 教授

1970年京都生まれ。京都教育大学卒。オハイオ州立大学で博士号(Ph.D.)を取得。専門はスポーツマネジメント、スポーツマーケティング。特に、スポーツ消費者(実施者、ファン・観戦者)の心理や行動の解明を研究テーマとし、スポーツをする人、見る人が増える仕組みづくりを検討している。現在、早稲田大学スポーツ科学学術院教授。日本スポーツマネジメント学会理事、ホッケージャパンリーグ理事なども務める。著書に、スポーツマーケティング(共著:大修館書店)、図とイラストで学ぶ新しいスポーツマネジメント(共著:大修館書店)など。

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