東京五輪招致、支持率アップの秘策。

松瀬学 | ノンフィクション作家

やはり五輪金メダリストのアピール力は大きい。2020年東京五輪パラリンピック招致委員会は8日、東京都庁で開催計画(立候補ファイル)の記者会見を開き、約200人のメディアが駆け付けた。TVカメラも数えたら、ざっと20余台。4年前のこの時点と比べると、間違いなく、招致活動のメディア露出は大幅アップしている。

会見のひな壇には中央に招致委会長の猪瀬直樹・東京都知事が座ったほか、招致アンバサダーの吉田沙保里選手もロンドン五輪の真っ赤なブレーザー姿で並んだ。ご承知、女子レスリングで五輪3連覇を果たした国民栄誉賞選手。東京の課題のひとつが国内支持率の低迷だが、猪瀬知事は東京都の都市力をアピールした上で、「4年前と雰囲気が全然違う。今回は(招致成功の)チャンス」と自信をのぞかせた。

もちろん、前回2016年五輪招致の時と比べると、政治情勢ほか、政財界、スポーツ界の熱意がちがう。2度目のチャンレジだから東京招致の認知度も上がった。さらにいえば、吉田選手やサッカーの“なでしこジャパン”の澤穂希選手らが招致アンバサダーとして東京PRを熱烈サポートしている。

現在、招致アンバサダーは吉田や澤ほか、フェンシングの太田雄貴、パラリンピックの土田和歌子、鈴木孝幸。さらにこの日、ロンドン五輪女子重量挙げ銀メダルの三宅宏美、パラリンピックの車いす3連覇の国枝慎吾、シンクロのソウル五輪銅メダルの小谷実可子が就任した。総勢8人。日本勢が活躍したロンドン五輪の後とあって、メダリストの注目度は大きい。7日のローザンヌでの国際オリンピック委員会(IOC)本部への立候補ファイルの提出も、サッカーの2011年年間最優秀選手「バロンドール」の澤がいればこそ、大勢のメディアが集まったのだろう。

「我々、事務方と違って、アスリートの方は都民に訴える力が全然違います」と招致推進本部の鈴木理・招致戦略課長は言う。アンバサダーの条件がずば抜けた実績を持っていることと、国内外の知名度が高いこと。語学が堪能ならなおよい。戦略広報部の西村亮副部長は「(アンバサダー効果は)予想以上です。1つの戦略として、今後もメンバーが増える可能性が大きい」と説明する。特に現役メダリストのアピール力が大きい。

当のアンバサダーはといえば、吉田選手は自分の役割を十分、理解している。「やはり招致成功には日本のみなさんの力が必要です。できる限り、わたしも東京をアピールして、支持率をあげていきたい」と笑顔を振りまく。ロンドン五輪後の「50万人の銀座パレード」でメダリストへの注目度に驚き、自身の影響力を知ったようだ。「選手の力は大きいと思います。オリンピックが終わったばかりというのもあるけど、もっともっと(メディア露出を)増やしていきたい」

両手の爪にはカラフルなネイルアート。東京招致に必要なものと聞かれると、「みんながひとつになること」と答えた。「一人でも多くの人がどうしても五輪を開きたい、東京で開催したいという気持ちを持てば、(成功の)勝率が上がるでしょう。たくさんの人に生で五輪を見てほしい」 7年後の五輪開催時は37歳となる。まだ独身ながら、「ママでも金を獲りたいなあ」と言って周囲の笑いを誘った。

昨年5月のIOC調査の開催地支持率では、東京は47%と低く、78%のマドリード(スペイン)、73%のイスタンブール(トルコ)に水をあけられた。東京五輪招致委がロンドン五輪後の昨年10月に実施した調査では、都民の支持率が65%、日本国民のそれは64%だった。これから支持率をどう上げていくかが招致成功のカギを握る。

ロンドン五輪の開催決定時にはベッカムが、16年リオ五輪招致成功にはペレが尽力した。これといった「招致の顔」がいない2020年東京五輪パラリンピック招致。吉田選手や澤選手の招致アンバサダーが招致成功への力となるだろう。

【「スポーツ屋台村」(五輪&ラグビーPlus)より】

松瀬学

ノンフィクション作家

早稲田大学ではラグビー部で活躍。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。ソウルからロンドンまでのすべての五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。著書は『汚れた金メダル』『東京スカイツリー物語』ほか

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